29・超戦艦グリフィスVS超戦艦ソビエツキー・ソユーズ
「目標! 水平線上に視認!!」
海賊島の沖合にて警戒活動を行っていた超戦艦グリフィスは、水平線に立ちはだかる巨大な黒鉄の城を捕捉した。
「ミハイル連邦海軍 超弩級戦艦、ソビエツキー・ソユーズで間違いありません! 進路変更なし!」
正面から見るそれは、先の大戦で活躍したロングゲート級戦艦に匹敵するサイズ。
基準排水量59,150トン、40.6センチ主砲を3基搭載した、連邦最大最強の戦艦だ。
「デカイですね……、我々の進路を阻むつもりでしょうか?」
「無線で警告を送れ、このままでは衝突するぞ」
艦長の指示で、無線を使った警告が行われる。
「艦番号661、艦番号661! こちらはアルト・ストラトス王国海軍、戦艦グリフィスである。貴艦はこちらの進路を妨害している、ただちに転進せよ!」
まずVHF(緊急周波数)で、海洋衝突防止法に基づく警告が行われる。
だが、返事どころか進路も変更されない。
「艦番号661! 貴艦は現在進路を妨害している! ただちに転進せよ! 繰り返す! ただちに転進せよ!!」
さらに国際チャンネル、救難用チャンネル等で呼びかけるが全く応答しない。
目標との距離は、着実かつ不気味に近づいていった。
大戦時……巡洋戦艦フォッグ・アイランドに務めていた、今の上司へ目を向ける。
「……艦長、本国はなんと?」
「現大陸ではまさに一触即発の状態らしい、なるべく刺激するなと指示を受けた。俺としても同意だ……魔王軍領内での核地雷使用は避けたいしな」
「しかし、このままでは衝突の恐れが……!」
「……旗信号を送れ! モールス信号でも同一内容を送信! 警告証明弾発射準備!」
グリフィスは取り得る全ての手段をとった。
それでも、互いの距離はドンドン縮まるばかりだ。
「証明弾、発射ッ!!」
ランチャーから夜闇をも明るく照らす照明弾が放たれる。
これでダメなら、いよいよこちらが回避することも考えなければならない。
大国の威厳を加味すれば、何としても避けたいのが本音である。
いよいよ距離が17キロを切った時だった……。
「目標! 面舵で転舵! 進路変わります!」
先に動いたのはソビエツキー・ソユーズ。
遠方で回頭する様を見て、乗組員に安堵が降りた瞬間だった。
「あれ……?」
双眼鏡を除いていた水兵が、素っ頓狂な声を上げる。
「あの主砲……、動いてないか?」
レンズで砲身内すら見えたとき–––、彼は自分の職務を自覚し叫んだ。
「砲塔旋回中!!! 目標の砲門が開いてます!!」
「なんだと!?」
同時に、海面が割れた。
並の魔法では到底起こせない衝撃波が、主砲を中心に咲き誇ったのだ。
「閃光視認!! 目標発砲ッ!!!」
「回避運動!! 取ーりかーじ!!」
グリフィスを含めた艦隊は、一斉に舵を切った。
放物線を描いた敵砲弾は、グリフィスの後方数キロで水柱を上げる。
「総員戦闘配置!! 全艦––––右舷、砲打撃戦用意!!」
非常ベルが鳴り響く。
艦内の緊張度は跳ね上がり、怒声がこだました。
相手は撃ってきた、この緊張状態もお構いなしで。
今度は雑多な海賊じゃない、自分たちと同格の国の超弩級戦艦が相手なのだ。
さっきまでとはまるでわけが違う。
「赤共め……!! 本当に撃ちやがった!!」
「正当防衛だ! 主砲斉射用意! 2型徹甲榴弾装填! レーダー照準! 撃てェッ!!!!」
衝撃波で海面が砕ける。
飛翔した46センチ砲弾は、最新鋭火器管制レーダーによって初弾で至近距離に落っこちた。
散布界も非常に小さい。
「次弾装填! 高め1!!」
「高め1!!」
再び斉射。
今度は、水柱がソビエツキー・ソユーズの周囲に激しく上がった。
正確な照準修正によって目標を捉えたのだ。
「近近近近遠遠!! 目標を夾叉!!」
「続けて撃てッ!!」
「敵戦艦! 第4射発砲!!」
刹那、グリフィスが大きく揺さぶられた。
クルーたちで床を転がる者も大勢出る。
波打つ海上は、グリフィスを囲むように水柱を高く上げていた。
「ッ!! こちらも夾叉されました!!!」
夾叉とは、放った砲弾が目標を囲むように着弾した場合を示す。
この状態になったときは––––いずれ必ず命中するということを意味していた。
「これでお互い撃てば当たる状態か……!! 上等ッ!!」
グリフィス艦長は、チラリと背後に映る海賊島を見ながら呟く。
「こっちは食い止める……! 神の復活阻止は頼んだぞ、レーヴァテイン……っ!!」




