28・エゴに満ちた神が干渉する世界なんざ、俺たちは御免だ
スペツナズを殲滅した俺は、落ちていたライフルを拾ってみた。
「AK-47……やはり新型か、口径は7.62ミリ」
重さは3キロちょい、STG44とどこか似ているも明確に差別化されている。
金属製の折り畳みストックは、取り回しが非常に良さそうだ。
海賊共から拝借した旧型サブマシンガンより、絶対こっちの方が良い。
何気に当てられてめっちゃ痛かったしな。
「やっほー! エルドさーん!」
明るい茶色のロングヘアーを揺らしながら、壁の穴から飛び込んできたセリカが抱きついてくる。
ちょ、こいつ、恋人になってから一気に距離感近くなったよなぁ……。あと、
「ま、周りの死屍累々は気にしないんだな……」
「あ〜……ウォストピアの時は裏でコッソリ吐いてましたけど、さすがに耐性ついたッスね。どうか成仏してください〜」
ナンマンダブーナンマンダブーと、しゃがみながら両手を合わせるセリカ。
コミュニストに同情するつもりはないが、彼らは勇敢に挑んできた。
最低限の敬意はこちらも払うべきだろう。
俺は武器をお借りしますと、一言だけ告げた。
「ところで、向こうの塔のスナイパーは……お前がやってくれたんだな」
「そうっスね、グレネード投げ込んでからエンピで叩きのめしました。わたしは優しいので半殺しに留めたっスよ」
「なら後で回収しに行ってやるか。ラインメタル大佐は?」
「城のどこかに落ちたと思うんですが––––」
セリカの言葉と重なるようにして、城の下層からフルオートの銃声がけたたましく響いた。
おそらくAK-47だ、考えられる可能性は1つ……。
「大佐は、たぶん城中に散ったスペツナズを全員殲滅してから合流するつもりだな」
「最新鋭アサルトライフルで武装した特殊部隊ッスけど、大丈夫ですかね?」
「不意打ちの対戦車ライフルすら避ける人だ、自動小銃なんざ効くわけないだろ。それより……」
かき集めたマガジンを挿入し、コッキングレバーを引いて離す。
小気味良い金属音と共に初弾を装填してから、俺は正面の門に向き直った。
「この先にエルロラとかいうヤツと、神器『インフィニティー・オーブ』があるんだな」
「入り方はどうします?」
「あいにくと俺らは軍隊だ、CQBで行くぞ」
「了解ッス」
門の両脇に散る。
俺はライフルを、セリカは左手にハンドガン(45ACP弾)を構えた。
「よし––––今っ!!」
僅かに開いた門から、グレネードを放り込む。
爆発を確認してすぐ、俺とセリカは同時に突入した。
Xを描くように左右を瞬時にクリアし、中央へ銃口を向けた。
––––ダァンダァンッダァンッダァンッ––––!!!」
取り巻きの海賊連中を一瞬で射殺し、最後に残った少女へサイトを合わせる。
「これはまた……」
少女––––エルロラは動じる様子もなく、立っていた。
透き通るような銀髪は壮麗さすら感じられ、神聖さを醸し出している。
だが、
「こんにちは勇者エルロラ。亡き神になろうとする愚か者よ……悪いがここまでだ」
発砲。
瞬くマズルフラッシュの先から、しかしエルロラは消え去った。
この超高速移動、『勇者モード』を発動したか……!!
俺たちも走りながら射撃するが、勇者エルロラは体操選手も真っ青な動きで銃弾を避ける。
「セリカ!!」
肉薄されたセリカへ、エルロラはその手に持っていた槍––––神器『インフィニティー・オーブ』を振り下ろした。
「よっ!」
だが、セリカはアッサリ右手のエンピでいなす。
それどころか、反撃とばかりに突き飛ばし、そのままハンドガンを連射で叩き込んだ。
CQBを極めた彼女は、勇者にすら引けを取らない戦闘力を手に入れていたらしい。
出血した脇腹を押さえながら、エルロラは数歩下がる。
「あぁ……。やはり簡単にはいかないわね、その忌々しい顔をわたしはずっと、ずっと苦痛で染めてやりたいと思ってるのに……っ!!」
エルロラは、槍をガンっと床へ叩きつけて魔力を溢れ出す。
やはり金色……勇者の力だ。
「その様子だと、俺らはずいぶん憎まれてるみたいだな」
「ッ……、当たり前でしょう? わたしは勇者として世界を良くするはずだった、女神様の元で天命をまっとうするはずだったッ!」
燃え盛るようなオーラが、怒りと共に濃く膨れ上がった。
「だがそれがどうだ……!! お前らがアルナ様を殺し、世界は永遠の混沌へ陥った! 勇者という立場だけがわたしを肯定してくれた。わたしをわたしたらしめてくれた! なのに……ッ!!」
エルロラは、憤怒と慟哭を合わせたような顔で俺たちを睨め付けた。
「女神を消し……わたしの全てだった勇者を全部ぜんぶ全部否定しやがって!! エルド・フォルティス……! ジーク・ラインメタル! お前らだけは、お前らだけは絶対に許さないッ!!」
上空に魔法陣が広がった。
いよいよ儀式が最終段階へ移ったらしい、時間はない。
「はっ! エゴに満ちた神が直接干渉する世界なんざ、俺たちは御免なんだよ」
「神器は渡さない……! 古のプロセス……『神結いの儀式』は絶対に邪魔させないわッ!!」




