27・神殺しVSスペツナズ
遅れてすみません!
俺の着弾地点は玉座の間の手前だった。
おそらく、謁見を直前に控えた人間が最後の身だしなみを整える広場。
その床に俺の血が広がった……。
「やったか!?」
俺は大量のライフル弾を受けて片膝をつく。
スペツナズが持っているのは、今まで見たことがない全く未知のライフルだ。
おそらく新型だろう、この作戦に掛ける連邦の意気込みが感じられる。
だが––––
「『ユグドラシル・ヒール』」
俺は崩れることなく、全身の傷を一瞬で治癒した。
女神アルナが使っていた魔法であるが、ヴィゾーヴニルの力を完全に取り込んだ俺はさらに高出力で発現可能だ。
顔を上げ、頬を吊り上げる。
「言っただろうコミー諸君、さようならと––––!」
響いた雷鳴とほぼ同時に、俺は超高速でスペツナズ隊員へ肉薄した。
「なぁッ!!」
その場で敵を叩き伏せる。
すぐさま銃口が向くも、雷と同じ速度で動く俺を捉えることなど不可能だ。
「撃てっ!! ヤツは神殺し、我々が目標としていた最大の敵だ!! 全力を出し尽くせっっ!!!」
スペツナズは素早い動きで柱などに隠れ、最小面積だけ出しながら射撃。
海賊相手なら十分通用しただろうが、こっちはこれでも天使や神を倒してきたのだ。
教科書通りの戦術など通用しないと、教導官としてキッチリ教えてやろう!
「なんて速さだッ……!! おまけに当たっても死にやがらねぇッ!!」
「グレネードだ! 攻撃手榴弾を使え!」
攻撃手榴弾とは、破片を飛ばす破砕グレネードとは別種のもの。
狭い範囲を爆風のみで攻撃するものだ。
「まぁ、せっかくの連邦製兵器も大声で喧伝しては意味ないな」
耳元で囁き、俺は今しがた叫んでいたスペツナズ隊員のグレネードをひったくり、そのままピンを抜いてベストに入れてやる。
「はっ……!?」
敵からすれば、グレネード攻撃しようとした人間が自爆したようにすら見えただろう。
嵐のような銃撃の中、隊長とおぼしき女性兵士が怒鳴る。
「ドラグノフ!! 全弾を南西から撃ち込め!
俺はミリオタ的勘から、それを狙撃の合図だと察した。
おそらく、新型の狙撃銃だろう。
「はああぁああッ!!」
空中で回転すると、床へ両手を思い切り叩きつけた。
爆音と同時に閃光が走る。
ミリシア王都で大英雄のパーティーに食らわせた、フラッシュグレネードモドキ魔法。
その極大出力バージョンだ。
狙撃の弾が頬をかすって通り抜ける。
「あいにく部下に狙撃の避け方を教えてる身でね、いちいち食らってたら示しがつかないんだ」
同時に両手へ魔法を展開した。
片方は水属性、もう片方は炎属性––––俺はその両手をバンッと合わせることで2つの属性を衝突させた。
大量の水蒸気がフロア全体を覆う。
「遠幕はこんなもんでいいな、さて……」
全身だけでなく周りの空中まで魔法陣を浮かべ、俺は無限の魔力を制限することなく放出した。
地鳴りで城が大きく揺れる。
「煙が晴れる前に終わらせようか」
索敵魔法で探知、次々にスペツナズを打ち倒していく。
さらに倒れた敵からライフルを奪い、一度コッキングしてから斉射。
力で反動を抑え込み、マガジン内の弾を撃ち尽くす。
「良いライフルだな、王国のよりも性能がいい」
ライフルを投げ捨てる。
とうとうフロアに残ったのは、大尉の階級章を付けた女小隊長のみだった。
煙が晴れていく……。
「残るはアンタだけだな」
俺の問いに、大尉は拳銃を向けながら息を吐いた。
「これが神殺し……、さすがだな。ただでさえ異次元クラスの戦闘力な上、こちらの動きを読んで多彩な戦術まで取るとは……」
「教導官なもんでね、CQBや対狙撃行動は頭と体に叩き込んでる。治癒できるとはいえ痛いしな」
「はっ! 貴様が今さら人間を気取るとはお笑いだ。そしてどうやら……変革の槍は我々へ微笑んでくれなかったらしい」
銃口が俺から逸れる。
「最後に忠告してやろう、エルド・フォルティス。貴様は間違いなく今や世界最強の存在だ––––しかし」
拳銃を自身のこめかみにグッと押し当てながら、大尉は最期の言葉を放った。
「神を殺した貴様が……、世界でもっとも神に近い存在なら。––––貴様はこれまでで最も親しくもっとも“最強な存在”と闘うだろう」
引き金がひかれ、大尉は自ら命を絶った。
今まで戦ったことがない最強の敵……俺は、もう薄々だが気づいてしまっていた。
ヴィゾーヴニルと一体化し、全属性と無限の魔力を持ってしまった俺と唯一戦える者。
神に近い人間を殺せる人間など、もう……“あの人”しかいないじゃないか。




