23・レーヴァテイン大隊出撃
グリフィスの後部甲板上––––海賊を退けた俺とセリカは、勝利の喜びに浸る間もなく集結させられていた。
「さて諸君、いよいよ目的の島へ近づいたわけだが……ニュースが2つあるので伝えておこう」
主砲の上に座ったラインメタル大佐が、こちらを見下ろしながら続ける。
「本艦隊は6時間後に、ミハイル連邦最大の超戦艦––––『ソビエツキー・ソユーズ』と接敵する可能性がある。コミュニスト共も狙いは同じだろう」
「……神器『インフィニティー・オーブ』、たしか連中も狙ってるんッスよね?」
「その通りだセリカくん、連中はその神器をもって倫理観ガン無視の核兵器製造やクローン兵士量産を行うだろう。そうなれば……いよいよ冷戦は熱戦へと変わってしまう」
セリカと健全な同居をするために始まったこの作戦が、いつのまにやら世界大戦の引き金になろうとしている。
そんな状況を嘲笑うかのように、紋章からヴィゾーヴニルの声が響いた。
『まったく人間というのは実に面白いのぉ、核兵器を乱発し、製造するおぬしらアルト・ストラトスが、今さら倫理や道徳を口にするとは』
からかい口調の彼女へ、大佐の代わりに俺が答える。
「人間は建前や大義が好きなんだよ、特に国家はな……。あと自分以外が特別なおもちゃを持つのだってつまらないだろう?」
『そこがイマイチわからんわ、そもそもなぜ国境を引いて争う? なぜ思想の違いを許容しない、同じ人間じゃろうて』
「答えは簡単、なんで俺らがわざわざ新大陸まで来たと思う?」
『ッ……』
そこまで言うと、ヴィゾーヴニルは黙り込む。
つまりそういうこと、俺とセリカの生活に彼女自身が現在進行形で干渉してしまっているからだ。
干渉するならば離し、分けるしかない。
『インフィニティー・オーブ』を奪取するのだって、俺たちは核兵器を造りたいからじゃない。
単純にお互いわきまえた、普通の生活を送りたいからだ。
「この2年で……君もずいぶん色々な物事を理解したらしいね、エルドくん」
「まさか、青二才に見える世界などたかが知れています。あえて言うなら……大佐の合理主義を胸に今日まで生きてきただけです」
「それで結構––––純然たる合理の鉄槌を、ふざけた幻想に叩きつけるのが我々の仕事だ。話を戻そう」
ラインメタル大佐は、ヒョイっと身軽に降りる。
「連邦戦艦接近との兼ね合いから、上陸支援ができるのはたった2時間に限られる。それまでに我々は島へ侵入しなければならない」
『普通にやって上手くいくのかえ?』
「ヴィゾーヴニルくんの指摘通りだ、木製ボートで行くんじゃ木っ端微塵にされる。そこでだ!」
傍に掛けてあった防水シートが剥がされる。
眼前に現れたのは、射出レールに乗せられた3つの黒光りする物体。
名を『V-1』。かつて慟哭竜ハルケギニアや、ヴィゾーヴニル相手に致命打を与えた兵器だ。
「これに乗って、空から上陸しようと思う」
マージか……。
たしかにネロスフィアの魔王城へ、ラインメタル大佐がこれに掴まり一緒に突っ込んだのは知っている。
実際有効なんだろうが、セリカは怖がらないだろうか。
「おぉー! 良いッスねぇ! それなら確実ですッ!」
あっ、特に大丈夫そう。
まぁ本当に危なかったら彼氏として、全力で守るから良いのだけど。
「そしてもう1つの報せは、島の上空で磁場の乱れが観測されたこと」
「あぁ……なるほど」
俺はすぐさま理解した。
神器が向こうにあるのだ、エルロラとかいうヤツがなにか良からぬ––––非常にマズイことをしようとしているのは明白。
女神よろしくまた異世界との扉を開かれるのは、御免被りたい。
……ならば我らがなすべきは1つ、神への叛逆でお馴染みのレーヴァテインとしてその仕事を行うまで。
「相手は神にならんと目論む元勇者、一応大佐の同業ですが––––殲滅して構わないので?」
「無論だ、君とセリカくんの慎ましやかな生活のため。相手の欲望はそれを超える欲望でもって粉砕せよ」
「「了解」」
俺は海賊から奪ったサブマシンガンを、セリカはエンピを手に歩き出す。
その横に、ラインメタル大佐も並んだ。
「さぁ諸君、楽しくなるぞ––––このメンツで再び戦える日が来たことを天に感謝しよう! レーヴァテイン大隊……出撃!」




