19・エルロラ海賊団
––––エルロラ海賊団拠点 新大陸南部ガルシア島。
海岸からなだらかな斜面を登った先、小山の山頂に一体化する形で古城がそびえ立つ。
かつて栄華を誇った古代帝国の跡地を拠点として、エルロラ海賊団は活動していた。
新大陸ち現大陸を結ぶ航路をナワバリにする彼らは、連邦製銃器で武装した強力な組織だ。
しかし、旗のなびく海賊団本部は現在喧騒に包まれていた。
「どうなってやがる……、なぜ国は今になって俺らを狙い始めたんだ」
エルロラ海賊団のNo.2にあたる、若頭の男––––名をダリスは忌々しげに悪態をつく。
それもそのはず、順調だった海賊業にいきなり暗雲が立ち込めたのだから。
「誰か状況を伝えろ! 被害報告でもなんでも良い、正確で迅速なやつだ!」
遺跡をそのまま利用した指令室へ、ダリスが入る。
薄暗い部屋の奥には、長机と広げられた地図……既にいくつもの印がついていた。
「ダリス、大丈夫!?」
20代後半の女性が駆け寄る。
細い腕には、お揃いの刺青がびっしりと彫ってあった。
「サーナ……船の準備はいいのか?」
「とっくにオーケーよ、とにかく説明するわ」
改めて地図を見下ろす。
これまでナワバリとしてきた海路……そのあちこちで、赤い×印が点在していた。
それが意味するものは1つ。
「これが全部……撃沈されたのか!」
「そうよ、小型大型を問わず発見された略奪船は全て連絡を絶った……報告では軍艦による艦砲射撃があったらしいわ」
「軍艦だと!? 巡視船の間違いじゃないのか?」
法執行機関による拿捕だと思っていたダリスは、何度も聞き直す。
しかし、現実は一切変わらなかった。
「事実よ、おそらく……エルロラ様の計画が国外へバレてしまったのかも。神器がここにあるのも知られたと見ていいわ」
「クソッ……! 敵の情報は?」
「南東より、ミハイル連邦海軍の超弩級戦艦が15ノットで接近中。それに北東からも正体不明の艦隊が西進しているわ」
状況は最悪だった。
まさか大国の軍が動くとは……下手に銃で武装してしまったことが、完全に連中へ大義名分を与えていた。
どうする……、エルロラ様は儀式の最終段階を行う寸前。
今邪魔するのも、邪魔されるわけにもいかない。
あのお方が創造する新世界へ、俺たちは永遠の幸せを抱いて住むのだから。
「ハイエナのように群がる外国人共め……! 島の防衛はどうだ?」
「秘匿していた対艦要塞砲は、稼働率が現在12%。艦隊が到着するまでにギリギリ間に合うかどうかね……」
「サーナ!」
ダリスは今一度、恋人と向き合った。
「俺たちは生き残る! 軍がなんだ! エルロラ海賊団は国家すら脅かす武力と経済力を持っている! 俺たちこそ新世界実現が可能な選ばれし人間なんだ」
「……わかっているわ、わたしたちこそ乱世を生き残る上位階級。全てはエルロラ様のために!」
指令室の扉を開けたサーナは、ダリスへ振り返った。
「潜水母船『アークロイヤル』船長、サーナ・ヴィクトリー。敵艦隊撃滅のため出撃します!」




