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【完結済み】外れスキルの不遇魔導士、ゴミ紋章が王国軍ではまさかのチート能力扱いだった〜国営パーティーの魔王攻略記〜  作者: たにどおり@漫画原作
【番外・新大陸編】

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18・罪を償うのに死ぬ必要なんかない

 

「うん、やっぱこの服が一番落ち着くな……」


 ラインメタル大佐とグラン・ポーツマスが戦った3日後、俺は支給された軍服に袖を通していた。

 黒が美しい、実に慣れた格好だ。


「セリカはカレンとショッピングへ行ったし、後日の準備は大方終わった……暇だ」


 あの騒動後、大佐に完敗した大英雄グラン・ポーツマスは拘束された。

 彼がその後どうなったかは知らないが、俺たちへ届いた情報は『インフィニティー・オーブ』の在処だった。


 ポーツマスによると、近海をナワバリにする武装海賊集団が保有しているとのこと。

 旅客船で俺たちを襲ってきた、あの海賊だろう。


「連邦製銃器で武装してるようだし、海軍の戦艦が来るまで待機……。それが来たら乗艦、決戦か……」


 一体なんの艦艇が来るのかと考えていた俺は––––


「ん?」


 街の人混み……紛れるようにして歩く。見知った顔を発見した。

 急いでベンチから立ち上がり、走り寄って姿勢のいい肩を叩く。


「ポーツマスさん?」


「っ……!? あぁ、君か……」


 大英雄グラン・ポーツマス、本人だった。

 よかった、ラインメタル大佐のことだから拷問の末に殺してしまったかと思っていた。


「エルドとか言ったな、……なんの用だ」


「別に用ってほどじゃないですけど、そっちは何してるんですか? 大使館で拘束されてたんじゃ……」


 頭を振った彼は、ゆっくり息を吐く。


「拘束はさっき解かれた、修理費の負担と情報提供で手を打とう……だそうだ。運が良かったと思うべきかな」


「まぁ、そう考えていいと思いますよ」


 実際、あの人昔からかなりの数スパイとか殺してるみたいだし。

 この大英雄さんは五体満足なあたり、人生全ての運を使ったんじゃないかな。


「カレンを知らないか? さっきから探してるんだが……」


「ウチのセリカとショッピングです、おそらく当分帰りませんよ」


「……そうか、じゃあこれで––––」


 踵を返そうとするポーツマスを、俺は肩ごと掴んで振り向かせた。


「行かせませんよ、俺と出会ったのが運の尽きでしたね」


「ッ、どういうことだ……! なんの権限があって……いいから離してくれっ」


「それが……“これから死のうとしてる”人間、だとしてもですか?」


 困窮したような顔で目を逸らすポーツマス。

 やはり図星のようだ、さっき見た時から薄々感じていた。

 眼前の男からは、生きる気力がまるで感じられないのだ。


「君には関係ないだろう……! 大英雄としての俺はとっくの昔に死んでいた。傲慢に陥った瞬間からな………それだけだ。これ以上誰にも迷惑を掛けたくないっ」


「それはエゴです、ポーツマスさん……! あなたが死んだら、誰が妹のカレンを支えるんですか」


「アイツにもう俺は必要ない! 今回それがよくわかったっ! 勇者にぶん殴られて痛感したんだ……自分は思い上がっていただけの愚者なのだとっ!!」


 チッ、面倒くさい!


 俺はポーツマスを無理矢理抱えると、さっきまで座っていたベンチへ放り込んだ。

 力なく座った彼が、驚いたように顔を上げた。


「その考えこそが傲慢です、愚者だから死ぬ? これ以上迷惑を掛けたくない? 良いじゃないですか、迷惑掛けずに生きれる人間なんて存在しないんですから」


「戯言を吐くなッ! 俺は大英雄の地位をいいことに好き放題し過ぎた……! もうこうすることでしか罪は償えないッ!」


「だから死ぬんですか? それこそ身勝手じゃないですか、あなたが今死ねば––––カレンは間違いなく路頭に迷う。アテなんかないんでしょう?」


 目を見開いたポーツマスは、汗を顎から垂らす。


「っ、いいですか……ポーツマスさん」


 俺は膝を落とし、相手と同じ視線で訴えた。


「それが特攻であれ、自殺であれ……残された者は必ず深く傷つきます。かつて戦友だった異国の女の子を看取った時、思い知りました……」


 脳裏に2年前の情景が浮かぶ。

 黒髪を銀に輝かせ、天使と女神へ1人突っ込んで行った少女––––


 日本に帰れたかはわからないけど、1つ言えるのは……今でも時々セリカはそのことを思い出して泣くということ。

 先立つ人間が辛いのは当然だが、残される者もそれ以上のダメージを負う。


 確かにこの男はバカだったかもしれない、傲慢の極みだったかもしれない。

 けれどカレンにとっては、失えない大事な家族なのだ。


 俺たちが味わった悲しみを……俺の目の前でだけは二度と繰り返させない。


「君は軍人だったな……、言葉が重い。戦友を失った者の本気の説得というわけか––––確かに俺は運が尽きていたのかもしれないな」


「えぇ、あなたはまだ死ぬのに早すぎる……。大佐がなぜ無傷で解放したかをもっとよく考えるべきです」


「俺には俺の役目が、まだあるということか?」


「確実に。じゃなければ既に脳天を撃ち抜かれ、死のうなんて考えさせてくれませんよ……ラインメタル大佐は」


 フッと笑みを浮かべたポーツマスの顔へ、徐々に活力が戻ってきた。

 端正な顔が、諦めたように微笑む。


「勝てないな……君たちには、じゃあついでに聞いて良いかい?」


「なんですか?」


「俺はどうすればいいかな、役目がどうと言いながら実は迷っている状態でね。どこから手をつければいいかわからんのだ、君に示してもらいたい」


 示す……か。

 俺に決める権利なんてない、けれどここ一番傲慢に振る舞うなら––––これしかないよな。


「じゃあ1つ提案です、……喫茶店を開いてみてはどうでしょう?」


「喫茶店?」


「はい、そしていつか––––本当にいつかで良いので、凄い能力を持っているのに虐げられている人、理不尽にギルドや学院を追放されてしまった有望な子へ……手を差し伸べてあげてください」


 それは、かつてラインメタル大佐に救ってもらった俺の過去から来た言葉。

 罪を償うのに、死ぬ必要なんかない。


 迷惑を掛けた以上に、誰かをいっぱい助けてあげればいいのだ。


「なるほど……、じゃあ今までみたいに、節操のない態度はいけないな」


 亜麻色の髪を整えたグラン・ポーツマスは、スッと立ち上がる。


「ありがとうエルドくん、確かに道を示してもらった––––謹んで務めさせていただこう。大英雄として、しがない1人の兄として」


 人混みに消えていくポーツマスさん。

 今の彼なら、カレンとも仲良くやれる……きっと新たな伝説の立役者になることだろう。


「さってと」


 クルリと振り向き、俺は軍靴で石畳を踏みつけた。

 手の紋章から声が響く。


『らしくないことしおって、まぁお主の過去を思えば当然の帰結と言ったところかの。空気読んで黙っとったんだから感謝するのじゃ』


「はいはい、ありがとうございます。じゃあ行くぞ––––次に送り出すのはお前なんだからな、ヴィゾーヴニル」


『浮かれない程度に期待しとるでよ』


意思は受け継がれる

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