第36話 出発
――――広報本部・ラインメタル少佐の執務室。
荷物の補給と報告に上がったそこで、少佐は分解した拳銃を組み立てながら一言漏らした。
「単刀直入に言おう2人共、我々の予算は確かに他部隊と比べ潤沢だが、無限ではない」
「はぁ......、そうなんですか」
セリカが感慨もなしにつぶやく。
「おいおいセリカ君......ちょっとは自覚してくれたまえ。街中で発砲口止め料、出動した警務隊に口止め料、破損した建物に修理費用......これでは予算などすぐ溶けてしまう」
あぁ......なるほど、いくら正当防衛とはいえ街中での戦闘だ。
銃声で間違いなく通報されただろうし、モンスターの後処理もある。
こういうドンパチの裏で、事情も数え切れないほどあるのだろう。
「留意し、以後気をつけます」
「まぁ今回ばかりはしょうがないと思うよ、クロムとやらの君たちへの逆ギレは理不尽の範疇だと考える。だが恋というのは時に残酷な化け物を生み出すものだ」
スライドを組み込み、拳銃の分解清掃を終えた少佐は机の下からショットガンを取り出した。
この人はどれだけ銃を隠してるんだ......。
「故に、我々は降りかかる火の粉を払わねばならない」
「まだ終わってない......ということですか?」
「あぁ、間違いなく君たちが行くクエストについてくるだろうな。ひょっとしたらこの広報本部もジッと監視しているかもね」
横にいたセリカが「ヒッ!」と肩を震わせた。
「うっとうしい限りですね」
「言っただろう? 追跡魔には決して容赦するなと」
非殺傷弾を込めた少佐は、俺へショットガンを渡してくる。
「大義と国家が絡まない殺しはただの罪だ、彼と闘る気ならそこらへん気をつけたまえ。まっ相手は殺しに来るつもりだろうが」
全くシャレにならない話である。
少佐から弾薬ボックスを受け取り、戦闘糧食をリュックに詰める。
「そういえば、結局なんのクエストへ行くんだい?」
「エルキア山脈のふもと――――隕石湖の近くまで薬草の採取だそうです」
「ほぉ......そこは確か元々魔王の領地だったね、今は"ミハイル連邦"との緩衝地帯でもあったな」
ミハイル連邦......、王国より北西に位置する巨大社会主義国家の名だ。
労働者階級の革命によって生まれた国で、アルト・ストラトスと同等以上の軍事力を持った厄介な仮想敵である。
「ちょうどいい、新生魔王軍の潜伏地を現在探していてね。合間に状況だけでも見てきてくれ」
「了解しました」
「了解ッス」
こうして、俺とセリカはとりあえずの装備を持って、元魔王領エルキア山脈ふもとを目的地に広報本部を出た。




