13・狂気は振り切れると正気になる
警報と火災ベルが鳴り渡る。
俺たちが通路に出ると、本来壁であるはずのエリアが大きく崩れていた。
剥き出しの館内から庭園を見ると、この騒ぎを起こした張本人が視界に入る。
「出てこい外国人共! 貴様らがあくまで歯向かうつもりだというのなら……俺は大使館を破壊し尽くしてでもカレンを奪い返す!」
大英雄グラン・ポーツマス……っ。
正面ゲートをぶち破って、アイツが建物を攻撃したのは明らか。
大使館への攻撃など、外交問題にすらなりかねんぞ。
「何やってるのよお兄ちゃん!! この人たちはわたしに何もしてない! これ以上バカを重ねないで!」
「バカを重ねているのは貴様だカレン! 悪辣な外国人に身を委ねるなど言語道断もいいところ! 今すぐこっちへ帰ってこい!!」
あくまでも、俺たちが強引にカレンを拉致したこととなっているようだ。
しかしこっちも見ているだけではない。
アサルトライフルで武装した警備が、窓から次々に銃口を突き出す。
「ラインメタル大佐! 発砲許可を!!」
「まぁいいだろう、やるだけやってみたまえ警備主任」
「了解、撃てッ!!」
マズルフラッシュが瞬く。
フルオートで容赦なく放たれた銃弾は、音速を超えて飛翔する––––
「『イグニール・ヘックスグリッド』!」
グランが腕を振ると、六角形の焔が幾重にもかさなって壁を形成した。
突っ込んだ銃弾は、その全てを防がれてしまう。
「やはりな」
ポツリと呟く大佐。
「野蛮なアルト・ストラトスの犬共よ、ただちにカレンを引き渡せ––––さもなくば」
グランが剣を振り下ろす。
一瞬の沈黙が降ったあと、再び大きな縦揺れが襲った。
乳白色の大使館が、真っ二つに切り裂かれたのだ。
「うっわぁ……、こっちの勇者ポジさんはずいぶん無茶するッスねぇ」
瓦礫からカレンを守っていたセリカが、思わずドン引いている。
ただの警備じゃ、アイツはどうにもできないだろう。
正真正銘の化け物だ。
俺が歩を進めようとしたとき、黒い袖が前を塞ぐ。
「エルドくん、君は新大陸に来たばかりで消耗しているだろう。ここは1つ––––愉快な元上司に任せてはくれないかね」
ジーク・ラインメタル大佐だった。
横目で見上げると、案の定––––邪悪な笑みを浮かべている。
だいたい察せる、この人ずっと新大陸で退屈してたんだな。
「自分で言いますか? でもまぁ俺はいいですよ……、久しぶりに貴方のイカレ具合を見てみたいですしね」
「失礼な、僕が狂っていたことなどあったかい?」
「狂気を常時まとっていると、オーバーフローして正気と認識されるっていうジョークですかね? であれば大佐は誰よりも”マトモ“だと思いますよ」
「君が成長しているようで嬉しいよエルドくん、じゃあ遠慮なく––––」
飛び降りたラインメタル大佐は、庭園の中心部で大英雄グラン・ポーツマスと対峙する。
勇者VS英雄、これは世が世なら絶対にあってはならない戦いだ。
「退屈な仕事の鬱憤を晴らすとしよう」




