10・大英雄グラン・ポーツマス
「兄さん......! なんで王都に? あと1ヶ月は帰らなかったんじゃ」
カレンが睨みつけるのは、同じ亜麻色の髪をした男だった。
身長は俺より高く、とても端正......言うなればイケメンな顔立ちだ。
察するに、彼女の兄上らしい。
「お前を1人で長期間置いとくわけにはいかんからな、予定を切り上げて帰ってきた」
「ッ、あんま子供扱いしないでくれる? わたし、兄さんがいなくても別に困らないし」
「そういうわけにはいかんだろう、あんな俗なギルドにお前を預けておくだけでも俺は不安しかない。それに––––」
兄さんと呼ばれた男は、俺へ向けて剣を抜いた。
「貴様ら何者だ、まさかカレンをたぶらかしていたわけじゃあるまいな?」
おっとかなり好戦的な方だ、初対面の人間に平気で剣先を向けてくるとは......。
警戒するセリカとカレンの前に、俺は歩み出た。
「初めましてお兄さん、俺はエルド・フォルティスと言います。アルト・ストラトスから来た旅行者なのですが、親切にも妹さんが道案内してくれたんです」
「俺の名はグラン・ポーツマス、この大陸では大英雄の名で通っている。そうだったか、外国人共がウロチョロしてるってのはホントだったらしいな」
笑みを浮かべたグランは、剣先を俺から旅行ケースへ向けた。
「人畜無害な顔をしていても、奥に秘める強さと殺気は隠せんぞ。お前らカタギじゃないな?」
「軍人が恋人同士プライベートで旅行に来ただけだよ、そっちこそ随分な態度じゃないか。妹さんが困っているようだけど?」
「カレンは俺の妹だ、家庭事情に貴様ら外国人が介入するな。それに誤魔化そうったって無駄だ」
取り巻きの冒険者が、俺たちを囲んだ。
「お前らが持つ旅行ケースの中身を是非拝見したい、拒否すればこの場で斬られても文句は言えん」
「ちょっと兄さん!!」
「カレンは離れていろ! これは兄として、大英雄としての責務だ」
やはりこいつ、バリバリに俺らを疑ってやがるな。
シスコンがただ不安がっているだけなんだろうが、いかんせんケースには分解したPPSH41が入っている。
「俺はともかく、こいつ––––セリカのカバンまで見るつもりか? 女性のプライベートに踏み込むのも大英雄様の務めとでも?」
「何度も言わせるな、無能な税関など最初から信用していない。貴様らもそうしてこの国に武器をばら撒く気だろう? ミハイル連邦とかいうやつのように」
あぁそういうことか、なぜこいつがこんなに外国人を警戒しているのか今わかったぞ。
憶測だが、連邦のコミュニスト共がスパイ活動を好き勝手やった弊害が出ているのだろう......!
あんのアカ共......!! 海賊を含めミリシアの地ですら邪魔をしてくるか。
「さぁ、開けてもらおう。ちなみに通報しても無駄だ......俺たちは王国ギルド・ランキング1位のパーティー。不穏な外国人とは信用度が違う」
やっぱ穏便に事を運ぶなんて俺らしくなかったな。
仕方ない––––
「セリカ! カレン! 目をつぶれッ!!」
俺は雷属性魔法を手に握り込み、開くと同時に炸裂させた。
「なッ!!?」
眩い閃光と轟音が走り、連中は大きくのけぞる。
これで10秒間は目も耳も使えないはずだ。
その隙に、俺はセリカとカレンを連れて一気に走り出す。
『なるほど、さながら即席のフラッシュ・グレネードじゃな。能力を遺憾なく使うではないか』
ヴィゾーヴニルが関心したように言ったので、俺も走りながら答える。
「もしもの為の非殺傷手段として練習してた、マグネシウムを使う本物にも劣りはしないはずだ」
『ふむ、しかし......』
後ろから響く怒号。
めちゃくちゃにブチギレているようで、カレン以外は車で轢き殺してもいいという雰囲気が伝わってきた。
『逃げるはいいがどこへ行くんじゃ?』
ごもっともだ、ここは奴らのホーム。
割とマジで選択肢に困っていた俺たちの前へ、1台の車両が角から飛び出してきた。
「なんっスか!?」
これはミリシアの車じゃない、キューベルワーゲンと呼ばれる“アルト・ストラトス”の軍用車両だ。
「あぁ、やっと見つけた」
俺は目を剥く––––運転席からこちらを見たのは、最も親しんだ元上司。
「新大陸へようこそエルドくん、そしてセリカくん。レーヴァテインのよしみだ––––迎えに来たよ」
胸の勲章をさらに増やし、あの頃とほとんど変わらない風貌を持つ元勇者。
ジーク・ラインメタル大佐が乗っていた。
本番外編を読んでいる方は、私が同時連載中の『竜王級エンチャンターの幸せなホワイトライフ』も是非見てみてください。
同じミリシア王国が舞台なので、きっと楽しんでもらえるかと。




