9・ユグドラシル・サービス
「いいですねー、お2人共似合ってます!」
さすがに街中を軍服で動き回ることは憚られたので、俺とセリカはついさっき出会ったばかりのカレン・ポーツマスに服屋へ連れられていた。
「なんつーか、冒険者然としてて違和感ある......」
「そうッスか? わたしは昔に戻ったみたいでなんだか懐かしいですね」
目を向けると、上半身は亜麻色で薄手のカーディガン。
腰から下は、ブラウンのガーター付きショートパンツとニーハイの組み合わせ。
長い茶髪と相まって非常に似合っており、冒険者時代はこんなだったのかと思わず想像が捗る。
かわいい。
「やっと服に色彩が出ましたね、あの黒一色だと悪目立ちしちゃいそうでしたし」
「あぁ、ホント助かったよ」
「いえいえ、外国の方に優しくするのはミリシアの流儀ですので」
板状の何かをこちらに向けて、パシャパシャと音を立てるカレン。
『あやつ、さっきから何をやっとるのじゃ?』
俺にしか聞こえない声で、ヴィゾーヴニルが呟く。
ふーむ確かに、そういえば聞きそびれていた。
「ねえカレンさん、その板状の物って魔導具ッスか?」
一歩早く、横にいたセリカが口開く。
彼女の問いに、カレンはこちらへ画面を向けながら言った。
「これは『魔導タブレット』って言って、色んな動画やイラスト、大勢のつぶやきが見れて、さらには写真まで撮れちゃうんです!」
「マジかよ......凄い魔導具だ、じゃあさっきから俺たちに画面を向けてたのって」
「あ〜すみません、ついテンション上がって撮りまくっちゃいました......。“ユグドラシル”には上げないのでお許しを」
またも妙な単語が出た。
ユグドラシルという響きは記憶に新しい、女神アルナをぶっ殺した因縁の世界樹であり、このポンコツ鶏の住処だった。
ヴィゾーヴニルが『懐かしい名前じゃのー』と思い出に浸っている。
俺が固まっていると、察したカレンがすぐに反応した。
「えっと、ユグドラシルっていうのはこの魔導タブレットを作った会社の名前なんです。同時に、大陸同時接続サービス......その通称です」
やはり、かつてオオミナトから聞いたインターネットなるものに近いのが、ミリシアには普及しているらしい。
工業社会のステップをほとんどすっ飛ばして、情報社会にまで達している......。
これが地球人ブーストの結果か。
「じゃあもうお昼ですし、ご飯でも食べますか? いいお店知ってるんですよ」
カレンに続いて大通りに出る。
とりあえず諸々なんとかなりそうだ、この調子で今日泊まる宿を見繕えば完璧。
いざ行かんとしていた俺たちの前から、ゾロゾロと集団が歩いてくる。
冒険者か、スルーしようとした矢先––––
「おいカレン、お前なにやっている」
先頭の男が、いきなりカレンの腕を掴んだ。
思わず身構える。
顔を歪ませた彼女は、忌々しそうに声を絞り出した。
「兄さん......! なんで王都に」
どうやら、家族沙汰に巻き込まれる気配大ありの様子。




