5・海賊ごときがプロを名乗るんじゃない
『お客様にお知らせします! 直ちに部屋へ戻り、個室の鍵をかけてください! 繰り返します! 本船は現在海賊の襲撃に遭遇しています!!』
船内アナウンスが鳴り響く。
乗客たちはあちこちへ逃げ惑い、次々に部屋へ走っていく。
「噂には聞いてたが......! よりによって今遭遇するとはな」
船が大きく揺れる。
体当たりしてきた海賊潜水母船が、横付けしてそこから戦闘員を乗り込ませてきた。
奴らの手には剣や杖ではなく、使い古された”連邦製ハンドガン“と、“PPSHサブマシンガン”が握られている。
「手を上げろ! これよりこの船は我々『エルロラ海賊団』が制圧する! ただちに機関を停止しろ!!」
海賊たちがぱっと見で30人......、俺とセリカへ銃を突き付けた。
今、こっちは完全に非武装だ。
「ん? 貴様ら王国軍か? なんで兵士が民間船舶に乗ってやがる」
隊長格の髭面男が、俺の胸に銃口を押し当てながら言う。
「さぁね、こっちこそこんな旅客船が海賊に襲われて困惑してるんだ......。銃を下ろす気は?」
「あるわけねーだろ兄ちゃん、この船は大陸間を横断する大型船だ、ありったけの食料含めた積み荷をいただく」
「そりゃ大変だ、ちなみに弾は入ってるの?」
「当たり前だろ? こっちはプロだ......軍人さんもこうなっちゃ終わりだなぁ。それに––––」
海賊は手を上げるセリカへ目を向けた。
「なかなか上玉じゃねえか、兵士にしとくにゃもったいねえ。俺たちの船へ乗せてやるよ」
「え〜......、寄り道するつもりはないんっスけど」
「拒否権なんてねーよ、いいか! 絶対に抵抗するんじゃねえぞ、軍人なら銃器の威力も知ってるだろう? 俺の指先で全部決まるんだ」
全く......、反社会因子が銃を持つとロクなことにならない。
規律と統制、絶対的な命令系統から外れた銃火器は蛮族どもに早すぎる。
「さぁ、てめーはこっちだ」
腕を引っ張られたセリカが、俺へアイコンタクトを送る。
一般人が全員甲板を離れた合図だった。
「なぁ隊長さん、さっき自分をプロとか言ってたけどさ」
俺は右手で突きつけられていた銃のバレルを握った。
突然の行動に驚いたのか、眼前の海賊はすぐさま引き金をひく、が......。
「あっ、あれ!?」
弾は出ない、否––––引き金が落ちなかったのだ。
「コッキングがされてないぜ? いくらオープンボルト方式でもそれじゃハンマーは動かないし、銃は撃てないんだよ」
銃ごと海賊を引っ張ると、俺はみぞおちへ膝蹴りを叩き込んだ。
崩れ落ちる敵隊長、射線が空いたことで後方の下っ端たちがハンドガンを俺へ向けてきた。
今度はスライドが引かれている。
「死ねぇッ!!」
拳銃弾が次々に俺へ突き刺さった。
マズルフラッシュが激しく瞬き、俺は大量の血をこぼす。
「よっしゃぁ! 一丁上がりっ!!」
歓喜の声を上げる海賊。
ハンドガンの弾も痛いがこんなものか、リーリスに刺された剣の方がまだ効いたな。
「なんで倒れない......?」
うろたえる海賊。
紋章からは、ヴィゾーヴニルが『タチの悪いヤツじゃ』とぼやいた。
「『超回復魔法』」
足元に世界樹模様の魔法陣が広がる。
体内の弾が消失して、俺のズタズタだった身体は一瞬の内に修復された。
これは、ヴィゾーヴニルと一体化することで得られた最高位の魔法だ。
あの天使リーリス・ラインメタルの攻撃すら耐えた実績がある。
「化け物めっ!! なら次は頭を––––」
マガジン交換しようとした海賊が、重い蹴りによってぶっ飛び......柵を破って海へ落下した。
「わたしを忘れてもらっちゃ困るッスよ」
元近接職の冒険者にして、レーヴァテイン大隊の切り込み役だったセリカが肉薄しながら言った。
見事なジグザグ移動で、銃弾を避けながら敵を次々と海へ叩き落としていく。
「ざっけんなぁッ!!!」
倒れていた海賊隊長が、今度こそコッキングしてサブマシンガンを連射してきた。
俺は全身に雷属性魔法を纏い、超高速移動で避け切った。
「ゴッフオアっ!!?」
そのまま蹴り飛ばし、ヤツが手放したサブマシンガンをキャッチ。
そのまま突きつけた。
セリカの方も、最後の下っ端を海へ落とし終わる。
「悪いが今は海賊なんか殺して足をつけたくない、海へ飛び込んでくれれば射殺はしないでやる––––あぁもちろん、衣服は全部脱いでもらおうか。何か隠されてても困る」
「クッソ......! クソクソクソっ!!! クソッタレ王国人がぁああッ!!!」
海賊隊長は、屈辱にまみれた表情で衣服を脱ぎ捨て、海へ飛び込んだ。
サブマシンガンのマガジンを抜いてから、きっちりコッキングレバーを引いて残弾を排出。
「なんとかなったッスね」
「あぁ、おまけに武器が調達できたし結果オーライだ」
海賊潜水母船が、船から離れて漂流中の戦闘員を救出している。
ヤツらの始末は、この海域の王国海軍に任せればいい。
さて......。
「もうすぐ上陸だ、気を引き締めていくぞ」




