2・魔王様ならきっとなにか知っている
「へー、それでわざわざ訪ねてきたのね」
きらびやかな装飾品に彩られた応接室で、俺とセリカはソファーに座りながら彼女と正対していた。
「こう見えて魔王も暇じゃないんだけどなー、エルドの頼みだからアポなし訪問も許しちゃうけど」
目の前に座るのは、水色の髪を揺らした低身長の吸血鬼。
元魔王軍最高幹部にして、現魔王––––アルミナ・ロード・エーデルワイスだ。
ロリっぽい見た目だが、見た目に反してとんでもなく強い。
氷のような瞳は相変わらずである。
「悪い、王国にいるのは今日までってラジオで聞いたからさ」
「別にいいよ、エルドとセリカには会いたかったし」
俺とセリカは、王都にある魔王軍大使館へ来ていた。
このじゃじゃ馬な紋章、ウィゾーヴニルの意識を俺から自立させる方法がないか、彼女なら知っているかもしれない。
「お久しぶりです、アルミナさん。なんか見た目全然変わってないッスね〜」
「久しぶりセリカ。吸血鬼ってほら、寿命長いから人間みたいにそこまで激変しないの。引き換え、あなたは随分と成長したみたいね」
妖艶な視線を、セリカの胸へ向けるアルミナ。
思わず前へ乗り出した。
「どこ見てんだよ」
「そんな睨め付けなくても奪ったりしないって、まぁちょっと豊満になったなーって思っただけ」
「目つきがいやらしいんだよ」
「彼氏さん怖いねーセリカ、こういう男ほど独占欲強いから気をつけてね」
「お前からぶっ飛ばされたいかよ......?」
睨み合っていると、アルミナの横にいた桃色髪の少女が憤慨した様子で口開く。
「あんまり気安く接しないでもらえるかしら? ウチのお姉ちゃんこれでも魔王なんだけど?」
新生魔王アルミナの妹、エルミナ・ロード・エーデルワイスだ。
こちらも、2年前と外見はほぼ変わらない。
「久しぶりだな、たしか......最高幹部兼、安全保障責任官だっけ?」
「まぁね、ミハイル連邦との戦争が近いかもだし、わたしの手腕が世界には必要だと思って」
世界大戦でこそ共闘したミハイル連邦は、現在王国とバチバチ睨み合っている。
1ヶ月前ヤツらは穀倉地帯の中立都市国家へ侵攻を行なっており、それも相まって緊張がとても高まっていた。
「同盟国としても頼もしいッス」
今の大陸の勢力図は『アルト・ストラトス王国』、『新生魔王軍』、『東ウォストピア』、オブザーバーに『スイスラスト共和国』を加えた連合王国同盟。
対して、ミハイル連邦を盟主とした西ウォストピアなどの社会主義陣営。
『ルーシー条約機構』がせめぎ合っている。
まさしく冷戦真っ只中だ......。
「フフン、こう見えてちゃんと軍事について勉強したし、このあいだなんて国境部で挑発してきたミハイル連邦の1個小隊を、素手でボコボコにしてやったんだから」
自信満々に腕を組むエルミナの横で、アルミナがため息をついた。
「まぁ、そのせいで赤軍の重砲兵旅団が国境へ来ちゃったわけだけど......」
「なによお姉ちゃん! さきに越境してきたアイツらが悪いんじゃない!」
「小競り合いであそこまでやれとは言ってないわよ」
とても一国のトップとは思えない姉妹喧嘩が始まる。
「おい落ち着いてくれ、今日はお前らの喧嘩を見に来たわけじゃないんだ」
『そうじゃぞ吸血鬼共』
エコーの掛かったウィゾーヴニルの声で、2人はハッと取っ組み合いをやめた。
「うわ、ホントに紋章が喋った......!」
『エルミナとか言ったか、ゴキブリと会話したみたいな反応はやめるのじゃ! 失礼じゃぞ!』
「へー面白ーい! こんなのがいたらそりゃ進展もしないわけよねー」
乱れた髪を整えながら、アルミナは興味深そうに俺の手を見る。
「なるほど理解、ようはエルドとセリカのプライバシーに関わる問題ってわけね」
「そんなとこだ......、まぁこいつ自体俺の分身みたいな感じだし、ユグドラシルの決戦で身に宿したのは俺の判断だったんだが......」
「いざセリカと交際を始めたら、そのせいで進展も進まなくなっちゃったと」
肯定としてうなずく。
すると、アルミナは机に1枚の写真を滑らせた。
「これは?」
「『インフィニティー・オーブ』って聞いたことある?」
「いや、初耳だ......」
写真には、1本の槍がモノクロで写っていた。
「そうねぇ......、極端に言うなら万物を操作できる神器かしら。女神アルナが残した聖遺物と聞いてる」
「操作? 見た感じただの槍ですけど......操縦桿にでもなるんッスか?」
「いえ......これはもっとユニークな代物よ。複雑な機械から魔法、果ては原子サイズの物質や人間の遺伝子、細胞まで弄れる」
思ったより凄まじいな。
原子や遺伝子まで作り替えれるなら、まさしく神器と言っていいだろう。
「で、ここからが本題よ。エルミナ?」
「りょーかい」
瞬間、部屋全体を魔力が走った。
外部に音が決して漏れない、高位の防諜魔法だった。
部屋の防音材だけじゃ足りない......そういうことだろう。
「今から話すのはちょっと危なめの話......。下手をすれば世界が叡智の炎に包まれるくらいヤバいかな、それでも聞く?」
魔王アルミナは、笑みを絶やさずそう言った。
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