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第343話 大団円

 

 1年半......あの戦いから、月日はあっという間に流れた。

 激動の戦争が終わり、新たな波乱が世界には満ちている。


 色んなことがあって、色んなものが変わった。

 諸行無常というか何というか、とにかくこの世は常に変貌を続けているのだ。


「ったく、あいつさては寝坊したな?」


 巨大な王都が見渡せる丘の上――――緑と花で満ちたこの場所に俺は立っていた。

 傍の木には自分用の大きな弁当箱を置いている。


『やれやれ、せっかくの再会じゃというのに締まらんのぉ』


 紋章から、もはやお馴染みとなったヴィゾーヴニルの声が響いた。


「まっ、あいつらしくて良いと思うけどさ」

『そういうもんかの?』

「そういうもんだよ。ほら、言ってたら来たみたいだ」


 風の音を掻き消すように、騒がしいエンジン音が近づいてきた。

 唯一ある道を登ってきたのは、1台の軍用車両だ。


 車は俺の傍で停止すると、エンジンを切る。

 扉が開き、中から少女が姿を現した。


「久しぶりッス! エルドさん!」

「おう、ってうおあ!?」


 彼女――――セリカ・スチュアートは俺の顔を見るやいなや思い切り抱きついてきた

 髪に混じって、良い匂いが鼻を触る。


「おぉ! エルドさん身長伸びましたねぇ! 体つきもガッシリしてるッス」

「お前こそ結構成長したじゃないか。見違えたぞ」


 そう、セリカとは実に1年ぶりの再会だった。

 戦争が終わり、対魔王軍用に設立されたレーヴァテイン大隊は解散したからだ。


 大隊のみんなは各地方の駐屯地や、教導隊教官として散っていった。

 もちろん俺とセリカも例外ではなく、今までずっと離ればなれとなって連絡もまともに取れていなかった。


「1年も経つと、結構変わるもんだな」


 ショートヘアだったセリカの髪型は、会えなかった空白期間でセミロングになっていた。

 身長も伸び、顔も可愛いながら前より少し凛々しくなったようだ。


「東西方面軍の合同演習なんて滅多にないですからね、敵役の部隊がエルドさんのところと知ったときはひっくり返りましたよ」

「俺もだ、まぁおかげでこうして再会できたわけだしな。荷物下ろすの手伝うよ」

「あっ、助かります」


 車からレジャーシートや、各種彼女の手作り弁当を下ろす。

 今日は2人きりでピクニックに来たというわけだ。


 あの日、ユグドラシルを登りながらセリカとした約束を、ようやく実現できた。


「そういえば、ミクラさんにこないだ会ったよ」


 シートを広げながら、俺はふと思い出したことをしゃべった。


「おぉ、久しぶりに聞きましたね日本人ネーム! お元気でしたか?」

「俺たちに負けないくらい元気だったよ、なんでも新しいギルドを創ったみたいでさ。いつまたオオミナトのようにこの世界へ迷い込む日本人がいるかわからないから、そういった人たちを助けられるようにするらしいぜ」

「それはいい考えッスね、皆がみんなオオミナトさんみたく適応力高いとは限りませんし」


 オオミナトか......。

 あの戦いの後、彼女のペアだった冒険者フィオーレに事情を説明したときは殴られる覚悟をしたもんだ。


 けれど、涙を呑んで彼女はオオミナトとの別れを受け入れた。

 友達として、故郷である地球へ返したことに怒りは覚えたくないと......。


 もちろん、しばらくは俺たちでフィオーレの心のケアを行ったっけ。


 今度はセリカが「そういえば」と口開く。


「アルミナさんとエルミナさん、今度トロイメライに来るみたいッスよ」

「マジか、俺の駐屯地がある街じゃん」

「"安全保障条約"について、さらに突き詰めるみたいです。あのアルミナさんが魔王やってるんですから、不思議な気分ですよね」

「全くだ、ちゃんと仕事できてんのかね」


 おおかたを広げ終わると、俺たちはシートに座った。

 俺の『THE・男飯』な弁当と違って、セリカの作った弁当は彩りがとても鮮やかだ。

 そういえばこいつ女子力高かったっけ。


「せっかく王都に戻ってこれたから、ラインメタル"大佐"にも会いたかったんですけど......動向全然わかりませんでした」

「まっ、だろうな。新大陸の国家に大使館を作ったのは知ってるだろ? そこの駐在武官にラインメタル大佐が選ばれたらしい」

「マジッスか! じゃあもう向こうの大陸に行っちゃうんですかね」

「時々帰ってくるとは思うけどな、そのときに会いに行こうぜ」


 コップに飲み物を入れる。

 お互いに、宴の準備は完了した。


「エルドさん......」

「なんだ?」


 セリカの瞳と、真っ直ぐに向き合う。


「わたしたちは、今も昔もこれからも――――大事なだいじな同志ミリオタです。かけがえのない......他に代わりはいない存在です。だから――――――」


 彼女は少し顔を赤らめると、意を決したように口開いた。


「あなたが大好きです、わたしと――――付き合ってください」


 俺はずっっと待ちわびていた言葉を受け取ると、嬉しさを堪えきれずコップを上げた。


「喜んでっ」


 恋人の顔が、晴れ渡る青空のようにパッと輝いた。

 紋章から茶化し声が聞こえるが、俺はひとまず無視する。


「なんか......めっちゃ小っ恥ずかしいですね、噛まずに言えて良かったッス......」

「お前が言わなかったら俺が言ってたから大丈夫だよ」

「ちょっ! だったらそっちが先に告ってくださいよぉ! わたしそれで緊張して昨日眠れなくて寝坊したんですよ!」

「スマン、でもどっちだろうと答えは一緒だろ?」

「まぁ......」


 心臓の鼓動がシンクロした。


「もういいや! 超恥ずかしいからこの話ッ! はい乾杯! サッサとコップ出して!」

「はいはい、乾杯っ!」


 蒼空に、乾杯の音色が響き渡った。

 俺たちが守り抜いた王国は――――今日も至って平和だ。


次回、最終話となります。

ここまでお付き合いくださり、本当にありがとうございました。

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