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第341話 終戦

 

 戦争が終わった。

 とても長いようで、けれど短かったそれは――――魔王軍の敗北という形で幕を閉じた。


 一記者である僕からすれば、歴史の転換点に立っているようでどうにも興奮を隠しきれない。


 連合国軍が魔都ネロスフィアを制圧したのとほぼ同時、新生魔王軍政府の長であるアルミナ・ロード・エーデルワイスによって停戦宣言が布告されたという。


 ある魔族は永遠かと思われた地獄の終わりを喜び、またある魔族は自分たちの敗戦に泣き崩れた。

 終わった、遂に終わった。


 みながその言葉を合唱する。

 この戦争における魔族の犠牲数は正確にわかっておらず、概算で5000〜6000万の魔族が戦火に倒れたのではと噂されている。


 それでも、戦争は終わったのだ。


 ――――――大陸歴778年 9月3日。


 王国海軍所属 巡洋戦艦ダイヤモンドの甲板で降伏文書の署名が行われた。

 この式は、後にコローナ宣言と呼ばれている。


 僕は上司に背中を押され、調印式の場に同席した。


 署名に参加したのは連合国軍の実質的な総司令官を務めた、王国軍中央参謀本部 戦務参謀次長。

 ならびに、勇者ジーク・ラインメタル。


 対する魔王軍側は、新政府の長アルミナ・ロード・エーデルワイスただ1人。

 内容は無条件降伏という、従来より連合国軍が突きつけていたものと同一だったが、内容に若干の修正が加えられていた。


 っというのも、ネロスフィア攻略において新政府を名乗った吸血鬼姉妹の活躍は決して無視できるものではなく、また戦闘に同行したラインメタル少佐も「彼女たちは必要不可欠だった」と述べているのだ。


 以上の点から、連合国軍は主権と領土の完全放棄を求めた文書内容を以下のように変更した。


 ◆

 ・(修正前)コローナ宣言において、魔王軍は国家主権の全てを放棄するものとする。


 ・(修正後)コローナ宣言において、魔王軍の国家主権は連合国軍管理下の元、全領域において適用されるものとする。

 ◆

 ・(修正前)コローナ宣言において、魔王軍はネロスフィア以外の全領土を連合国軍に割譲するものとする。


 ・(修正後)コローナ宣言において、魔王軍はウォストピア以東の全域を放棄するものとする。それ以外の領土には、引き続き魔王軍の国家主権が行き届くものとする。

 ◆

 ・(修正前)コローナ宣言において、魔王軍は一切の武力を放棄するものとする。軍事力の保有は連合国軍の許可を得ずして認められず、治安維持に関わる限定的な警察力以外は認められない。


 ・(修正後)コローナ宣言において、今後必要最小限度の自衛力の保有以外は許されない。また、自衛力の行使には連合国軍構成国1ヶ国以上の同意が必要である。

 ◆


 簡単に言えば、領土はわりかし残していい。

 主権は取らないでおく。

 自衛力くらいなら持ってていいよ。っというものであった。


 これは吸血鬼姉妹の活躍に加わり、連合国軍と魔王軍の戦力差があまりにも膨大であることが要因と考えられる。

 ぶっちゃけた話、もはや放置しても魔王軍などどうにでもなるということだ。


 むしろ、変に主権を奪って追い詰める方こそ危険であるというラインメタル少佐の警告が活きた形だった。

 無論、それでも代償は払ってもらうこととなる。


 まず、このコローナ宣言によって魔王軍が降伏した後――――魔王ペンデュラムが戦犯として処刑された。


 彼の処遇を決める裁判にも出席したが、魔王とはあんなにもダンディな男だったのかと驚いたものである。

 敗北に歯を食いしばっているものかと思っていたのだが、魔王の表情は非常に穏やかだった。


「幻想と偽りの安寧は壊された、俺の魔王としての職責は......これにて終わりとする」


 彼が最期に放った言葉の真意は、僕にはわからない。

 けれど、未練を残した顔じゃなかったのだけは......傍目でもよくわかった。


 ――――10月1日。


 今となってはもう戦後なのだが、僕は調査を進める内にとある部隊の名へ辿り着いた。

 トロイメライ騒乱からウォストピア本土決戦、ネロスフィア攻略作戦とあらゆる戦場で目撃されたという幻の部隊。


 名をレーヴァテイン大隊。

 噂ではあの勇者が指揮していたとされているが、真相は不明。


 この部隊を追って王都にある軍の広報協力本部を訪れたのだが......。


「そんな部隊知らないッスよ?」


 茶髪の綺麗な女の子に......軍服を着ていたから軍人だろうが、アッサリと否定されてしまった。

 っていうか、なんでスコップ持ってたんだろう。


 結局、噂は噂で終わってしまった。


 ――――数ヶ月後。


 なんといっても戦後というのは大変だ。

 経済の立て直し、新たな安全保障環境。


 まず目新しいニュースから書いていこう。

 なんと、この大陸の他に別の大陸が海の向こう――――――アルスフィア洋の先で発見された。


 最初は東ウォストピアの船舶が目撃情報を世に出し、続いてその報を受けた王国海軍の軽巡洋艦が新大陸を確認した。


 既に相応の魔法文明が築かれていたらしく、今王国外務省は新大陸の国家と進出のため折衝せっしょうを行っているらしい。

 噂では、すぐにでも大使館を置いて駐在武官を配置するとか......。


 もう1つのニュースは、この王国がかつて激しく争った魔王軍と同盟関係を持ったこと。

 新生魔王アルミナは人類との共生を謳っており、友好関係はすぐに出来上がった。


 なぜこのようになったか、それはミハイル連邦の存在だ。

 かの共産主義国家は先の大戦以降、南下政策を積極的に取っている。


 不凍港を欲しがる連邦の赤い食指が、王国と領土問題を引き起こしたのだ。

 これを受け、我が国は新生魔王軍と対連邦を基軸とした同盟関係を構築した。


 まぁ......こんなもんか。


 僕は筆を置くと、背もたれに体重をかけた。


「結局、なんのための戦争だったんだろうな......」


 僕は調べる内にある疑問を抱いた。

 それは、今回の戦争は意図して起こされたのではないか......という半ば陰謀論めいたものだ。


 けど、考えてみれば不自然なのだ。

 あの頃の軍の諜報力をもってすれば、トロイメライ騒乱なんて未然に防げた可能性がずっと高い。


 国境要塞線だってそうだ、いくら魔王軍の復活がわかっていたとしても、あれだけの軍隊をあんな迅速に配備できるものなのか。

 資料を漁っても、予めスタンバイしていたとしか思えない。


 だが可能だった。

 平時ならば民衆の反発があっただろうが、トロイメライ騒乱によって大衆の戦争意識は高まった。

 それが国境線への素早い展開を許していた。


「誰かが......民衆の意識を操作するために、トロイメライ騒乱を未然に阻止しなかった」


 そんなことのできる権限持ちは、軍内に数えるほどしかいないだろう。


「なんてな、王国は正当防衛をしたに過ぎないんだ。こんな陰謀論考えるなんて疲れてるのかな」


 ありえないのだ。

 それこそ勇者クラスでなきゃ......。


「っ......」


 僕は一筆を入れた。

 タイトルは――――――


『今時世界大戦は、勇者の謀略によって生み出された』


 陰謀論者が好みそうな字面だ。

 あの勇者様が、なんのために戦争を起こすというのだろう。

 自分で書いててアホらしくなる。


「神を殺すんじゃあるまいし」


 僕は紙をビリビリに破くと、クズかごに放り入れた。


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[良い点] 大団円? でしょうか
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