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第337話 ジークVS女神アルナ

 

 エルド・フォルティスがヴィゾーヴニルの力を取り戻し、天使と激闘を繰り広げるのと同刻。

 女神アルナは唯一の部下を全く助けることができていなかった。


「いやはやエルドくんがあそこまでやるとは、お互い想定外だったね。女神アルナくん」


 煙から現れた勇者ジーク・ラインメタルは、健闘している部下を見た後にアルナを一瞥する。


「まったくもって、痛快極まるよ」

「裏切り者め、不調法なその頭蓋......、木っ端微塵にしてくれる!!!」


 聖剣を両手に錬成し、突っ込んでくる女神から目を離さず、ラインメタル少佐は叫んだ。


「君の抵抗が本物だというなら、僕に示して見せろ! ペンデュラム!!」

「ッ!!」


 この言葉に直接的な意味は含まれていない。

 だが、魔王ペンデュラムは長年争ってきた勇者の意図をすぐに汲んだ。


「チッ!」


 彼は、右手に持っていた物を迷わずぶん投げた。


「そうだ、それでいい......」


 乱暴なパスを受け取ったラインメタル少佐は、その"得物"で女神の二刀流を受け止めた。

 数メートル押されるが、ガッチリと鍔迫り合いに持ち込む。


「よく即断してくれたペンデュラムくん、君の意思は確かに預かった」

「なっ......それは!?」


 目を疑う。

 なぜなら、攻撃を止めた勇者の手には魔王のみが使用を許される武器――――――『魔剣オールト』が握られていたからだ。


「神である私が与えた全てのもので、神に歯向かうなど......ふざけるな! 勇者としてのプライドすら捨て去るつもりか!!」

「ようやく気づいたか周回遅れのマヌケめ、使えるものは何でも使うのが軍隊だ。それが聖剣だろうと魔剣だろうと、僕には一切合切関係ない!!」


 鍔迫り合いに押し勝ったのは勇者。

 女神の持つ『聖剣ラニアケア』と、勇者の持つ『魔剣オールト』が激しい剣舞を繰り広げる。


「なぜ裏切った! 神の信徒であることを忘れ、神への恩義と忠誠を蔑ろにした罪は重いぞっ! ジーク!!」

「無垢だった僕の妹をたぶらかしておいてよく言うよ、あの日、僕から家族を奪った貴様だけは、なんとしても殲滅すると決めているんでなぁッ!」


 力技で一気にゴリ押す勇者。

 地面を大きく転がった女神は、瞳を金色に輝かせた。


「エンジェル・リンク、コード2!!」

「っ!?」


 少佐の全周囲を、魔法陣が一瞬で囲った。


「砕け散れ!!」


 光属性魔法が一斉に発射され、大爆発を起こす。

 爆風を体で受けながら、女神は勝利を確信していた。

 もし生き延びていても、直撃したなら大ダメージは必須。


「今だ、今のうちに」


 ニューゲートから地球人の信仰を奪えれば......!

 そうすれば回復能力も、より強大な力も自分のものになる。

 一発逆転ができる。


 が、儀式を続けようとした女神へ攻撃が降り注いだ。


「『イグニス・フレシェットランス』!!!」

「なっ!!?」


 見上げれば、ほぼ無傷のラインメタル少佐が急降下してきていた。

 女神は悟る、自分でも見えないほどの超高速で真上へ待避し、攻撃を避けたのだと。


「クソぉッ!!!」


 2刀の聖剣で、勇者のとてつもなく重い剣撃を防いだ。


「ニューゲートから信仰を取り出したいんだろう? 確かにフィクションなら話の盛り上がりを重視して、ご都合的に君がパワーアップする展開だ。しかし!!」


 猛撃が、アルナの鎧を砕いて斬撃を浴びせた。

 大量の血が噴き出る。


「ぐあっ......が!??」

「そんなことを僕が許すわけないだろう、これは補正も温情もない現実だ」


 女神の顔に少佐のパンチがめり込んだ。

 鼻血が溢れ、歯が砕ける。


「オオミナトくんを地球に送り届けた今、もはや君の薄ら寒いニューゲート計画に加担する必要はない」

「まさか......お前!! 我々がニューゲートを開き切るのをずっと待っていたのか!? あの異世界人のために」

「御名答だ、君たちの計画を阻止するチャンスなんて数え切れないくらいあったさ。でも」


 連撃を受け流し、ラインメタル少佐はターンしながら女神の脇腹をえぐり斬った。


「ぐはっ!!」

「そんなつまらないことはしない、そんなのは効用の最大化とは言わない。どうせ迎えるなら最大級のハッピーエンドが一番だろう?」


 ようやく女神は、さっき言われた「周回遅れ」という言葉を理解した。

 全ては勇者の......ジーク・ラインメタルの手の平の上だったのだ。


 神であるというおごりすら、この男に最初から利用され、ここまでずっと無様に踊らされていた。

 今までニューゲートを開く邪魔をされなかったのも、眼前の勇者の目論見に過ぎなかったからに他ならない。


 もはや、地球人の信仰などこの男の前では奪えない......。

 ようやくアルナはその残酷な答えに行き着いてしまった。


「ゴッフ!!?」


 バカみたいに強い勇者の蹴りを食らい、女神は数十メートル足裏を削りながら吹っ飛ばされた。


 ――――ダンダンダァンッ――――!


「がっ、ぐあ! あっがぁあッ!?」


 ホルスターから取り出された9ミリ拳銃が火を吹く。

 人体を殺傷することに長けたホローポイント弾は、剣を遥かに超える激痛を女神に与えた。


 同時に別の場所で爆発が起きる。

 煙を貫いて飛ばされてきたリーリスが、満身創痍となった女神アルナの足元に転がった。


「エルドくんの方も終わったか、さて......」


 ラインメタル少佐は魔剣を下げた。


「チェックメイトだ、女神アルナ」


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