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第334話 これがわたしの最後の魔法

 

 初めてこの世界に来たときは、本当に困惑したっけ......。

 だってそうでしょ? わたしはコンビニに行こうとしただけなのに気づいたら木組みが綺麗な街のド真ん中にいたんだもん。


 心と本能が歓喜するのがわかった。

 これってラノベである異世界転生ってやつだーと。


 スキップし、数人の通行人からヒヤ〜っとした目で見られてようやく冷静になると、自身の置かれてる状況のヤバさに気づいた。

 身なりは学校の体操着、日本円は当然使えない。


 言葉が通じるかもわからなかった、けど――――――


 《ふぅ......、素晴らしい出来だった》

 《新型のサブマシンガンもなかなか良きでした、いつか撃ってみたいッスねー》

 《同意、やはりお前とは気が合うようだ》

 《そりゃあミリオタですから》


 世界観に全然そぐわない会話をしている男女を見つけた。

 最初はスルーしようと思ったけど、なぜかわたしは気づいたら声を掛けていた。


 格好は冒険者ではなく、どこか軍人っぽかったからテンプレとは外れちゃうけど、なんだか信用できそうな雰囲気に背中を押された。


 結果としては正解。

 わたしはエルドさんたちと出会った。


「オオミナトッ!!!」


 後ろから彼の声が響く。

 あぁ......、すごく後ろ髪を引かれるなぁ......。

 やっぱ戻りたい、けど――――――


「異世界人が......っ! 貴様にできることなど万策漁ったところでもうない!!」


 頭上の天使は鬼のような形相でわたしを睨む。

 あいつは全部を消し炭にしようとしている、そんなのは許さない。神が許してもわたしが許さない!


 必死で覚えた『アンリミテッド・ストラトス』が、わたしをグングン上昇させる。

 まだだ、もっと......もっと上へ!


 ヤツに、手を......!!


 ――――ズンッ――――!


 突如全身の感覚が麻痺した。

 お腹が痛い......、殴られたとかそういうレベルではない激痛。

 冷たくて、でも焼き切られるような痛みは体を見下ろせばよくわかった。


「が......ハッ!?」


 死角から飛び込んできた光の剣が、わたしの腹部に深く突き刺さっていたのだ。

 背中まで貫通し、大量の血が服を赤く染め上げた。


「オオミナトさんッ!」


 セリカさんの声が、ものすごく遠くに聞こえる。


「キャッハッハッハ! お腹がお留守だったわよ異世界人! むざむざ殺されにくるなんてやっぱり愚かな民族だわ」


 愚か......?

 まったくもってそのとおりだ、けれど――――――


「ぐっ、ぅあぁッ!!」


 愚かなことのなにが間違いだ!

 こみ上げてきた血を口から吐き出し、光の剣を抜き捨てる。


 痛いっ、痛い痛い痛い痛い......! 痛みで気が狂いそうだ。

 けれど構わない、こんなことで屈してたらわたしはここまで来れていない。

 わたしは今まで立ち上がっていない!


「ぬぅああぁぁあああッ!!」

「ッ!? 内蔵を焼き切ったのに! なぜ......!」


 驚愕した天使が、再び迎撃網を張る。

 アドレナリンが噴き出しているからか、わたしは痛みに惑わされず攻撃を避け切った。


「ッ!?」


 天使と......、女神の直上を取る。

 2人共にありえないと言いたげな顔つきだ。

 実際意識を保つのさえ辛い......、だけどここ一番で挫けたらわたしは死んでも死にきれない!


「やれッ!! オオミナト!!!」


 彼の声援に応えたい!

 全身全霊の一撃――――――これがわたしの最後の魔法ッ!!


「リーリス! 撃てっ!!」

「はっ、はい!!」


 させない!

 これがわたしの全てだ、全部......受け止めてみろぉッ!!!


「『鳳凰――――暴風陣』ッッッ!!!」


 体中の魔力を風に変換し、真上から叩きつけた。


「ぐあっ、うっ!! ぁぁあッ!!」


 魔法を発動しようとした天使を、女神もろとも暴風の奔流でユグドラシルに撃ち落とす。

 全身から......力が抜けていった。


 ◆


 最初に彼女を見たとき、なんともおかしな格好だと思ったものだ。

 服装もそうだが、髪や宝石のような瞳まで黒いのだから外国人と悟るのに時間はいらなかった。


 《あのー......、ちょっとお聞きしたいんですが》


 セリカと公園でミリタリー雑誌を読んでいたとき、俺たちは彼女――――オオミナト ミサキと出会ったのだ。


 本当に、なにを言ってるのやらわからなかったな。

 極東だとか島国だとか、けれど彼女は俺たちと出会うべくして出会ったのだと今では思う。


「オオミナトさんッ!!」


 落下するオオミナトへ向かって、セリカがエンピを捨てて駆け出す。

 そうだ、お前がセリカにとって初めてできた同性の友達だったな。


「ッゥ!」


 飛び込む勢いで、落ちてきたオオミナトを彼女は受け止めた。

 遠目でも、彼女の銀髪が元の黒色に戻っているのがわかる。


 魔導士としても......、彼女から魔力をほとんど感じなくなっているのがわかる。

 彼女はもう、この世界にはいられない。


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