第332話 1は再び巡り合う
俺が歩みをゆっくり進めると、広がっていた黒煙が晴れていった。
花畑に倒れるヴィゾーヴニルは歯を食いしばって起きようとしたが......。
「げほッ......」
その場で大の字に崩れ落ちた。
纏っていた炎や雷が四散し、腕に浮かんでいた紋章がフッと消える。
爆風で吹っ飛んだ剣を拾い、彼女の首に先端を突き付けた。
「チェックメイトだ、ヴィゾーヴニル」
目を開けた彼女は、ため息をつきながら俺の顔を見上げる。
さっきまであれほど強く、凛々しかった瞳は完全に抵抗を諦めたようだった。
「上手くいくと思ったんじゃがのぉー......、やはり簡単にはいかんかぁ」
「そうでもないさ、お前があのとき魔法杖を出さなかったら俺はこの世界の仕組みに気づけなかった。立場はきっと逆だっただろうな」
「あぁー抜かったー......、最悪じゃ」
ゲームで負けた子供のように、ヴィゾーヴニルは歯を食いしばる。
「この世界は俺とお前、2人の空間だ。仕組みさえ理解できていれば剣でも銃でも自由に創ることができる。だから最初に剣をばら撒いて騙くらかす作戦は良かったぞ」
「......必死で考えたんじゃよ、でもさすがはワシの片割れ。こうもアッサリ見破られるとは......」
諦めか、それとも感嘆か。
彼女は不敵に笑った。
「世界は歪み続けている......、その歪みがワシから魔力を分離させ――――お前に宿らせた。こうしている間にも世界同士が融合しつつある」
「この世界と、地球のことか」
「そうじゃ、女神のヤツは地球人の抱く信仰心を奪い取るつもりだろう。祈り、捧げる気持ちはあやつの魔力の原動となる」
「それを許せば......どうなる?」
ヴィゾーヴニルは幼い顔から微笑みを消さない。
そして、俺の問いにハッキリと答えた。
「全ての存在は、例外なく女神の奴隷へと下るじゃろうな。現にワシも世界樹も......ヤツの不死属性を支える歯車にされておる」
「なら俺は......俺たちは抗う。お前を女神の奴隷から解放して、みんなと全てを終わらせる」
「簡単では......ないぞ?」
「上等だ、オオミナト風に言うなら――――――」
大きく息を吸った。
「俺が主人公だからな」
「プッ......ハハ! その自信過剰なところも気に入ったわい」
目尻に涙を浮かべたヴィゾーヴニルは、声を掠れさせながら言う。
「エルド、最後にお願いがある......聞いてくれるか?」
「なんだ」
ヴィゾーヴニルは振り絞るような声で、俺に"願い"を告げた。
あまりに看過しがたい......やればきっと俺たちは死ぬかもしれないことだった、でも俺は迷うことなく首を縦に振っていた。
「わかった」
「助かる......ワシはもう疲れたんでの。お前と一緒に行かせてもらう」
「ってことは......」
「その剣で、ワシの胸を貫くだけじゃよ......。お前の勝ちじゃ。全部持っていけ」
剣を逆手に構え、上に持ち上げる。
「......楽しみじゃ、これから色んな体験ができるのかなぁ。お前の見るもの味わうもの......これからは全部一緒に共有できるのかな」
「あぁ、これからはずっと一緒だ。なんせ――――俺たちは」
銀色の剣を振り下ろす。
「「同じ存在なんだから」」
心臓を穿つ。
瞬間、陽光がより一層強く瞬いた。
全てが白色に包まれ、彼女の体と共に消滅する......。