第329話 VSヴィゾーヴニル
「やっぱり......俺の力はヴィゾーヴニルの一部だったんですね」
感慨もなく口開く俺へ、少佐は口調を崩さずに答えた。
「そうだ、君は分離したヴィゾーヴニルの力の一部を持っている。詠唱系属性魔法が今まで使えなかったのもそのためだろう」
「少佐は全部知ってたので?」
「僕もそこまで全能ではないよ、前に乗り込んだ『ウォストブレイド国境大要塞』の司令部で、ユグドラシルやヴィゾーヴニルについて書かれた本を読んだんだ。そこで――――――」
「俺の紋章を思い出し、照らし合わせたんですね」
「あぁそうだ、世界の歪みによってこのようなことも起きると書かれていた。つまりだ.......」
咆哮をするヴィゾーヴニルへ、俺たちは正対する。
「エルドくん、君はアイツでありアイツは君だ」
「どういうことです?」
「君の力をヴィゾーヴニルは取り返そうとするだろう、だが......逆もまた然りなのだよ」
ここまで言われて、俺はようやく少佐の言わんとすることがわかった。
「アイツの力を......俺が取り込めばいいと?」
「御名答だ!!」
地を蹴った少佐が、一気に前へ飛び出した。
「まずはヴィゾーヴニルを調理する! 女神は放っておけ!」
「了解!!」
まったく......話が凄いことになってきたが、呑み込むしかあるまい!
掩護する形でハンドガンを撃ちまくる。
「ヴィゾーヴニルの力を奪えば、女神の再生機能は消滅する! 今しかチャンスはない!」
ヴィゾーヴニルと正面から取っ組み合う少佐。
上空で儀式を行っている女神が、挑発するように言った。
「やってみるがいい勇者! ヴィゾーヴニルに勝てるならな!」
「やってやるさクソビッチ! ......うおおおおぉッ――――――らぁあッ!!」
クソ重いであろうヴィゾーヴニルを、少佐は背負い投げの要領で床へ叩きつけた。
ユグドラシルの頂上部にヒビが走り回り、大きく揺れる。
「エルドくん!『ヴィゾーヴニルの尾羽根』である君が入ることで、レーヴァテイン大隊は完成を迎えた。これは我々に与えられた試練だ! 一緒に乗り越えるぞ!!」
ラインメタル少佐に呼応する形で、セリカとオオミナト、魔王ペンデュラムが前へ出る。
「タンク!!」
風を纏いながら叫んだオオミナトに合わせて、セリカが前へ出る。
ギュルリと起き上がったヴィゾーヴニルが、自身の両側に光の斧を錬成。
3人に目掛けて叩きつけた。
――――ガギイイィィンッ――――!!!
地震を起こすほどの一撃は、しかし前衛にいたセリカのエンピによって止められていた。
「よくやった!!」
オオミナトは風で、ペンデュラムが魔剣を持ってヴィゾーヴニルの体を切り裂いた。
再生はしていない、いける......!
「次来るぞ!!」
俺は声だけを出す。
まだこの場から動いてはいけない、俺にできる最大最強の攻撃をするために!
再び振り下ろされる光の斧。
攻撃して走り抜けていた3人へ向かうが――――
「そらっ!!」
突っ込んできたラインメタル少佐の蹴りによって防がれる。
ヴィゾーヴニルがのけ反ると同時にセリカとオオミナトが反転、再び敵に斬撃を与えた。
吹っ飛んだヴィゾーヴニルは、いくつもある柱にぶつかって煙に覆われた。
さすがの連携だ、特に魔王ペンデュラムは本当によくレーヴァテイン大隊の動きに合わせていると思う。
彼も少佐ほどではないにせよ、戦いの天才なのだ。
上空では、女神アルナが焦ったような表情をしていた。
「まだだ! 全員散開!!」
少佐の指示で、俺以外のみんなが一斉に走る。
同時に大量のイカヅチが降り注いだ。
鐘の音が聞こえる。
ヴィゾーヴニルが本気を出したのだ。
怒涛のような雷に続き、業火や氷結ブレスまで次々に放ってくる。
なるほど、さすがは俺の片割れ......俺が使えない属性魔法をガンガン使っていた。
まだか......、まだか......!
必死で攻撃を避けるみんなを見ながら祈り、そして――――――
「今だっ!!」
俺は遂に荒んだ床を蹴った。
背後から近づくハエのような音、俺は託された王国軍の想いを受け取る。
「魔導誘導リンク接続! 俺に従えっ!『V−1』!!」
全力で走る俺の両サイドに、数百キロで飛んできた2発の『V−1』が並んだ。
頂上にいる俺たちを見たさっきのワイバーン部隊が、発射を要請してくれていたのだ。
遠くから接近するこれを感知した俺は、ずっとこの瞬間を待っていた!
俺はお前......! お前は俺だっ!!
「止めろっ! ヴィゾーヴニル!!!」
「うおおおおおおぉぉおおおおおおおおッ!!!!」
汗だくで悲鳴のような声を出す女神を無視。
向けられる雷の乱打を回避しながら跳躍し、制御化に置いた2発の魔導ミサイルをヴィゾーヴニルへ向けた。
「やれッ!! エルドくん!!!」
「あなたが主役です! エルドさん!」
「決めろっ! エルド」
「やっちゃってくださいッス! エルドさん!!!」
全員の想いと共に、俺はV−1をヴィゾーヴニルに叩きつけた。
凄まじい爆風と飛翔する破片を魔法で防いだ俺は、黒煙を突っ切って倒れるヴィゾーヴニルへ着地した。
「はあああぁぁああッ!!!」
手で触れた瞬間、ヴィゾーヴニルの強大な魔力へ俺は一気に干渉する。
「お前は俺だ......!! 返してもらうぞ! 俺の力を!! ヴィゾーヴニル!!」
視界が真っ白に染まり、全ての音が聞こえなくなった。