第327話 神獣降臨
クソクソクソクソッ!
まったくもって度し難い、一体何度攻撃を当てりゃいいんだ。
ユグドラシル頂上での戦いは、激烈そのものだった。
俺たちが何度アタックをかけても、女神アルナはそのたびに『ユグドラシル・ヒール』を発動させるのだ。
殺す手段なんてこの一瞬でアホほど考えた。
順に振り返っていこう。
「これでも食っとけぇッ!!」
まず女神の口にショットガンをくわえさせ、喉ごと散弾でぶち抜いた。
押し倒して何度も発射し、弾切れを起こしたらナイフで掻っ切る。
血は盛大に吹き出したが、距離を離した途端に回復されて新品同然になった。
つまり失敗。
だがまだ始まったばかり、ポジティブ思考で早速次へ移った。
「『ソード・パニッシャー』!!」
セリカが渾身の剣技スキル(エンピで)を繰り出し、防御魔法ごと女神を吹っ飛ばす。
高速化魔法で先回りしたペンデュラムが、魔剣を上から叩きつけた。
床が砕け、舞い散る粉塵目掛けて爆裂魔法を打ち込む。
盛大な爆発で一応右腕を破壊することに成功したが、これも結局回復される。
つまり失敗。
だがこんなことでめげていてはいけない、俺たちは戦いに戦った。
しかしどれだけ作戦を試そうと、結局回復されてしまえば意味をなさない。
あれ......ってかこの状況詰んでね?
勝てるビジョンが見えないんだが。
「はぁっ......! はぁっ」
セリカの額から流れ落ちた血が、ビチャビチャと床に溜まった。
「エルドさんマズいッスよ......これ、ただでさえ強いのにあんな回復されたらお手上げです」
さっきから肉薄しまくっているセリカは、同時に反撃も食らいまくっていた。
表情は痛みと疲労によって歪んでいる。
「あぁ、だがもっと嫌な話を聞くか?」
「なんッスか......?」
俺はショットガンのフォアエンドを往復させ、空薬莢を排出。
1発だけチューブ弾倉にねじ込んだ。
「銃、あと5発で弾切れになる......」
「やっぱりッスか、じゃあこれ使ってください」
セリカはおもむろに、12ゲージ弾を服から取り出した。
「エンピを持った分だけ余裕ができたんで、持ってこれました。その15発が正真正銘最後の弾です」
「すまん、助かる......」
シェルを受け取った俺は、大事にしまう。
「もっとも、足りるかどうかわからんが......」
視線の先に立つのは、不死身にさえ思える敵。
女神アルナは不気味に微笑んでいた。
「愚かな人間に愚かな魔王よ、残念ながらお前たちは私の計画を止められない」
「なんだとっ!?」
ペンデュラムが剣を構える。
「なぜこの私が世界樹の頂上を決戦の場にしたと思う? ニューゲートから近いことはもちろんだが、もう一つキチンと意味があるのだ」
「へー、教えてほしいもんッスね」
まだこれ以上隠し球があるってのか、全く嫌になるな。
「これより私は儀式の最終プロセスへ移る、お前たちの遊び相手はここまでだ」
そう言って、女神アルナは両腕を広げた。
「神の見初めは世界の始まり......、座して待ち続ける神崎の王よ。最も近き最果ての地より――――降臨せよ!」
大きな地揺れがユグドラシルを襲った。
クッソ、阻止しそこねた......これはマズい。
あれは――――――
「さぁ、終焉の鐘を鳴らせッ!!」
超極大召喚魔法だ......!
――――ゴーン......、ゴーン――――
世界に鐘の音が鳴り響いた。
見上げれば、ニューゲートより降ってきた大きな物体が俺たちの正面へ落下した。
「なんだ!?」
全員が警戒する。
煙が晴れ、やがてぼんやりだったシルエットがハッキリと浮かんだ。
そいつの鳴き声は鐘の音そのものだった。
星全体を揺らさんそれに、思わず耳を抑える。
「はぁっ!?」
そいつは鳥だった、地面に足を着けたニワトリのような外見だった。
竜に比べればあまりにマヌケな見た目、だがそいつこそこのユグドラシルの番人であると直感で理解した。
「ゴーン、ゴーン!」
咆哮したニワトリは、ゆっくりとこちらを向き――――――
「あっ」
殺意を向けた。
口から放たれた光線は俺たちを掠め、遥か遠くの地平線へと消える。
そして――――
まるで太陽がもう一つ現れたかのようだった。
核兵器と同レベルの大爆発が、遠方の山々を消し去ったのだ。
あぁそうかいそういうことかい、道理で女神のヤツが倒れないわけだ。
「気づいたようだな、こいつこそユグドラシルに住む神獣――――名を『ヴィゾーヴニル』。"無限の魔力"を持ち、世界樹を管理する者。私はこいつとリンクして不死身の体を手にしている」
無限の魔力......。
女神が嘘を言っているようには見えない、おそらくホントのことなのだろう。
だが......。
「有限の魔力しか持たない貴様らに、ヴィゾーヴニルは殺せない。年貢の納め時だな」
ドヤ顔で語るアルナ。
いや、これ言ってもいいのか......?
こう見えて俺も魔導士だからわかってしまうのだ。
「ヴィゾーヴニルだっけ? そいつ」
「そうだ、こいつこそ無限の魔力を持つ最強の――――」
俺は女神の言葉を遮った。
「その神獣の魔力......、さっきの一撃でガッツリ減ってるぞ」