第322話 世界の頂上にて、その者たちは邂逅する
オオミナトさんの挿絵どうだったでしょうか。
あれはよくお世話になってる方がイラストレーターとして開業したので、記念に依頼したものです。
銀髪っ娘は可愛いでしょ? 可愛いじゃろ!?
「倒す? このわたしを? あっはっはっはっは!! 無理に決まってるじゃない、わたしはあの勇者の妹にして天使なのよ?」
そう言ってリーリスは、下卑た笑みを浮かべながら前に出る。
「雑魚に構ってる暇はないの。さっきまで床にめり込んで無様に気絶してたゴミ虫に、選ばれし存在であるこのわたしが倒さ――――――」
言い終わる前に、リーリスの顔面へオオミナトの拳がめり込んでいた。
吹っ飛んだリーリスは、壁に激突する。
ガラガラと崩れる瓦礫を見ながら、オオミナトは表情を崩さず口開く。
「血を吐いて、瓦礫にまみれるのがわたしの戦い方です。結構楽しいもんですよ」
瓦礫をどかしながら、リーリスは憤怒と驚きがない混じったような表情でオオミナトを睨みつけていた。
その口からは真っ赤な血が流れている。
「これであなたも、わたしと一緒ですね」
「ざっけんなゴミ虫が......! わたしは選ばれし存在だ! 血と瓦礫にまみれるのはお前だけで十分だ!」
「じゃあやってみてくださいよ」
俺が外の回廊へ出るのと同時に、ユグドラシルの外壁が吹き飛ぶ。
飛翔したオオミナトとリーリスが、空中へ飛び出したのだ
「天使であるリーリスと互角にやり合うとはな......、あの娘の覚悟を無駄にしてはいかん」
「だな、いくぞセリカ! ペンデュラム!」
ショットガンをスリングで吊り、両手に魔導ガトリングガンを抱える。
回廊はもうすぐそこで終わっている、この先こそが俺たちの目指す頂点だ。
「みんな......大丈夫ッスかね?」
俺たちの背中を押してくれた仲間たちを想ったのか、セリカがポツリと呟く。
「心配すんな。あの少佐がくたばるわけないし、エルミナたちも十分強い。オオミナトも覚悟を決めている」
「エルドさん......」
「なんだ?」
「この戦いが終わったら、のどかな草原へピクニックに行きませんか? 平和になった世界で......いらなくなった兵器についてミリオタ同士じっくり語らいましょう」
"いらなくなった兵器"......か。
もしそんなことが許されるなら......。
「もちろんだ、お前とならいくらでも喋れる」
きっと幸せなことなのだろう。
王国軍の持つ全ての武器、兵器、兵士はこの時のために造られた。
俺がこのレーヴァテイン大隊へ入ったのだって、きっと偶然なんかじゃない。
縁に沿って、引かれ合って辿り着いたのだ。
あの日、あの魔法学院の屋上でセリカ......お前と出会ってなかったら、それはそれはつまらない人生を送っていただろう。
誰もかれもを羨み、妬み、持たざる自分に失望していただろう。
あのイカれた少佐に会うことはなく、こうして世界を賭けた最終決戦に赴くこともなかった。
「セリカ」
「......なんでしょう?」
だからこそ、言わせてほしい。
俺を失意のどん底から救ってくれたお前に、こうして隣で一緒に走る権利を与えてくれたお前に。
心の底からの気持ちを伝えたい。
「ありがとう、セリカ」
走る彼女の横顔が、とても優しくほくそ笑んだ。
「こちらこそッスよ、エルドさん......」
靴裏で踏みつける材質が変わった。
光の回廊から頑丈な床へ、これ以上を示す道は存在しない。
真上には全く違う世界を映した巨大な鏡、ニューゲートと呼ばれる異次元の扉。
周囲を何体ものホムンクルスが浮かんでいる。
逆に見下ろせば、昼間の雲が足元より下にあった。
広大な緑と、西にはかつて亜人勇者と戦ったウォストセントラルの街並みが見える。
俺たちが守るべき、俺たちだけの世界。
そしていよいよ前を向けば......ユグドラシルの頂上、追い求めていた存在が1人、ポツンと背中を向けていた。
「これを......邂逅と言うのだろうな」
透き通った声と共に、女神アルナはゆっくりと振り向いた。
銀色の髪を風になびかせ、ペンデュラムと似たような......けれど露出の多い鎧を付けた姿は勇者のようで魔王のようでもあった。
頭上に浮かぶ光の輪っかと、背中に並ぶ透明な羽根が尋常ではない空気を放つ。
こいつこそが、殲滅すべき悪の権化。
「やっと会えたな、女神アルナ」
「よく辿り着いた......とまず言っておく、愚かな魔王と凡才な女も一緒とは驚いたがな」
「愚かで凡才か、じゃあ俺からも挨拶させてもらうよ。紳士らしく」
俺はこの世で最も尊敬している勇者を、最大限リスペクトしながら魔力を高めた。
「こんにちは女神様、そして――――――さようなら」
俺は両手に持っていた魔導ガトリングガンを放り捨てた。
さぁ、最後の戦いを始めよう!