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☆第321話 彼ら、彼女らは意を決する

 

「進めセリカ! 怯むなっ!!」

「わかってるッスよぉ!」


 俺たちを乗せた車は、幅の広い光の回廊を突っ走っていた。

 道なのかもよくわからないそれを、タイヤはしっかりと掴んで疾走していた。


 この上に、この回廊の先に全てがある......!

 文字通り世界の頂点を目指して、この戦争の終結を願って突き進む。


「左上空! ガーディアン多数!!」


 オオミナトの声に振り向くと、ユグドラシルのてっぺん付近から群れを成してガーディアンが急降下してくる。

 ショットガンの弾数では無理だ、オオミナトの魔法も全ては防ぎきれない。


 だったら――――


「お借りします! ステアー2曹!」


 傍にあった6連装魔法杖を持ち上げた。

 かなり重いがいける......! 必要なのは膨大な魔力だけ!


 力を流し込んだ瞬間、銃身のような部分が猛烈な速度で回転。

 魔導弾のシャワーを撃ち上げた。


 ――――ブゥゥウウウウウゥウウウウウウウウウン――――!!!!


 繋がった射撃音が響き、凄まじい反動を堪えながら俺は薙ぎ払うようにガーディアン群を撃墜した。


「うっひゃー! なんスかその魔導具! めっちゃ強ぉ!」

「たぶん元は魔王軍の武器だったんだろうよ、ステアー2曹たちが大事にしてたのも頷ける」

「これなら楽勝ですかね?」

「いや、そう簡単にはいかんぞ......!」


 太陽を背に、真っ白な羽を羽ばたかせた金髪の少女が俺たちを睨んでいた。

 見覚え? あるさ、ないほうがおかしい。


「リーリス・ラインメタル!!」


 言わずと知れた"少佐の妹"にして、女神アルナに仕える天使だ。

 どうやら本当にここから先へ上らせるつもりはないらしい。


「セリカさんは運転に集中してください!!」


 瞳を銀色に染めたオオミナトが、魔法を発動した。


「『アルティメット・ウインドランス』!!」


 風の槍が駆け昇る。

 が、攻撃はアッサリと避けられリーリスはこっちへ目掛け飛翔してきた。


「主に逆らいし愚かな咎人よ、その身を持って償うがいい!」


 不気味な笑みを浮かべるリーリスの顔が、鮮明に見える距離まで肉薄される。6連装魔法杖は間に合わない......!


 車を捨てるという選択肢すら浮かんだ時だった。


「がはっ!?」


 真っ黒な炎の竜が、リーリスに直撃した。

 大爆発を起こした魔法は、彼女を一時的に遠ざけさせる。


「ふざけた真似を......! 誰だ!!」

「それはこっちのセリフだと言わせてもらおう、リーリス」


 車体後部がズシンと揺れる。

 振り向けば、そこには黒い鎧を身に着けた男が手に剣を持ちながら立っていた。


 ミラーで後ろを見たセリカが顔を青くする。


「エルドさん! オオミナトさん! そいつは魔王......魔王軍のトップ、ペンデュラムです!!」

「なっ!?」


 慌てて武器を向けるが、ペンデュラムは優しい口調で俺たちを制止した。


「落ち着いてくれ勇者パーティー、俺は貴様らの敵ではなくなった。さっきの魔法も俺が放ったものだ」

「何っ?」

「俺たち魔王軍はこれまで天界の作る舞台装置でしかなかった、だが魔王軍が崩壊し、部下も大半を失った今......もはや俺に迷いはない」

「つまりは?」

「一時共闘だ、俺たちの敵は天界ただ1つ。この魔王ペンデュラムが――――お前たちの味方になってやる!」


 思わず逡巡する。

 これは罠か? いや、それにしては......。


「え? エルドさん......! そいつは敵ですよ。早く倒しちゃったほうが......」

「お前たち3人の噂は聞き及んでいる、俺が昔相手をした勇者パーティーの連中とは比べ物にならんくらい強いとな。特にスコップ使いの少女が強いと」

「マジッスか!?」

「マジだ」

「エルドさん! この人仲間に入れましょう!」


 ちょっろ! お前絶対合コンとかそういうの行くなよ。

 しかしまぁ......。


「嘘をついてる目じゃないのはわかるよ、実際助けてくれたしな」


 武器を下ろす。


「話が早くて助かる。名前は......」

「エルドでいいよ、こっちはセリカ。こいつはオオミナト」

「わかった、感謝する......では行こう!」


 俺たちの仲間に、成り行きとはいえ魔王が加わる。

 車はいよいよ頂上付近に近づいた。


 回廊は終わりを告げ、再びユグドラシルの中へ入るようだった。


「クソ兄貴の部下に! 裏切り者の魔王風情が! このまま行かせると思うなぁ!!」


 部屋の中央部に先回りしたリーリスが、魔法陣を浮かべた。


「ッ!! 全員飛び降りろぉっ!!」


 超高出力の光属性魔法が、車を正面から貫いた。

 大爆発を背に、俺たち4人は床を転がる。


「くっそ!」


 車がやられた。

 もうここからは自分の足でしか登れない。


「アルナ様は全ての世界の神になられるお方......、誇りも信念も持たない貴様らを、通すわけにはいかない!!」


 金色の魔力がリーリスを覆う。

 さすがにラインメタル少佐の妹、正直勝てる見込みがあるかどうか......。


「エルドさん! 皆さん!!」


 オオミナトがリーリスの正面に立つ。


「あの子はわたしが相手します、3人は女神のところへ!」

「......っ」


 俺は刹那の間に決断した。


「あぁ、頼んだ!」

「それでこそエルドさんです! 行ってください!!」


 正対していたオオミナトが魔力を開放する。

 漆黒だった髪が一瞬で銀色に染まり、膨大な風を纏う。

 彼女の最強形態――――『風神竜の衣』を発動したのだ。


「こりもせずまた銀髪? さっきアルナ様にあんな無様な負け方しといて、異世界人って学習しないのね」

「確かにさっきは完敗しました、でも......それはわたしが甘かったからです」

「甘かった?」

「相手の力量も測れずに、調子に乗って返り討ちにあう。悔しかった、滅茶苦茶悔しかった!!」


 暴風が部屋を駆け巡った。


「だからわたしは、この悔しさとあの時の屈辱をバネに、さらに上へ行きます!」


 右手を振りかぶり、一挙に魔力を集める。


「今度はわたしが――――――慢心しきったあなたを倒すッ!!」


挿絵(By みてみん)



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