第319話 無免許運転と命令違反
「フッホッホッホッホッホ!! 誰かと思えばあなたですかエルミナさん、しつこい女は嫌われますよ?」
「せっこい手でセリカを攻撃しようとしたお前が言うな、エーテルスフィアに潰されてれば良かったのに」
現れたエルミナは、眼前のヒューモラスと対峙した。
獲物を譲る気はなさそうだ、なら俺たちも速やかに行動へ移らなければなるまい。
「コッホ少尉と数名を残して前進する! ここは彼女に任せるぞ」
「あら、ずいぶんアッサリ一任してくれるじゃない。手柄貰っちゃうけどいいの?」
「そんな小物に要はないからね、僕らレーヴァテイン大隊の目的は女神ただ1つ。噛ませ犬に構ってる暇なんてないのだよ」
移動しようとした俺たちを、しかし黒い手の壁が遮った。
「行かせると思いましたか国営パーティー! あなた方がアルナ様に楯突こうなど不幸千万、無礼千万! ここで死ぬことこそ物語の華というものですよ!」
「おいこら! 道開けろ! こっちは急いでんだよ」
「ハッハッハ! 蒼玉の魔導士も人付き合いが悪い」
「接待でもお前みたいなヤツ相手にしたくねーんだよ」
どうする、力づくで突破するか......?
いや、弾限られてるしここはエルミナに任せた方が――――
――――ブオオォン――――
突如聞こえてくる騒々しい音。
それは段々と俺たちの方へ向かってきており、何人かの兵士が開いた扉を見に行って――――
「うっ、うわあああぁ!!!」
「全員待避ぃー!!」
叫びながら左右に逃げた。
なにが来るのかと銃を構えた俺たちの前へ、それは姿を現した。
無骨な車体に、四輪のタイヤが付いたここにあるのはおかしい魔導具。
その場の全員、ラインメタル少佐でさえも珍しく目を丸くした。
「車だとぉっ!?」
名を魔導四輪車。
車は勢いよく広間に突っ込んでくると、兵士たちを轢きそうになりながら高速で俺たちへ迫り――――
「えっ、わあぁぁあ!?」
「ちぃっ!」
直線上にいたセリカに俺は勢い良くタックルして、無理矢理避けさせた。
「いったぁっ!? 蹴りの次はタックル受けたぁ!」
「轢かれるよかマシだと思え! お前の命にゃ代えられねぇんだよ」
今さっきまでいた場所を突っ切った暴走車は、急カーブしてそのままヒューモラスを指向。
「お待ちなさい!! そんなのは聞いてな......」
彼を思い切り轢き飛ばした。
吹っ飛んだヒューモラスは、奥の壁に激突する。
なんでユグドラシルに車が? 誰がこんな無茶苦茶をと思って停止した車を見ると、3人の人影が降りた。
「運転......もう、したくない」
ばったりと倒れたのは、エルミナの姉――――吸血鬼アルミナだった。
もしかして、彼女がこれをここまで運転してきたのか?
っつーかめっちゃ目回してダウンしてるけど大丈夫かよ。
続いて出てきたのは、なんとレーヴァテイン大隊員だった。
「なんつー滅茶苦茶な運転だ! 無免許運転反対! 法定速度を守れ!!」
「ステアーさん、無理矢理乗った俺らが言えたことじゃないですよ」
ラインメタル少佐が近づく。
「ステアー2曹にシグ兵士長か、どうも見ないと思ったら......ずいぶん好き勝手をやっていたようだね」
「「ギクッ!」」
2人の兵士が肩を強張らせる。
あぁ~......もしかしてあの2人。
「軍で言うとこの命令違反ってやつです?」
寄ってきたオオミナトの言葉に、俺は肯定の意を示す。
「ほうほう、さしずめ宝探しでもしてたのかな? どうだい? 上官の命令を無視し、持ち場放棄をしてなにかいいものは見つかったかい?」
「それは......その」
2人の兵士は膝を落とし――――
「「す、すんませんでした――――――――――!!!」」
これでもかと言うくらい綺麗な謝罪を見せた。
前にオオミナトから聞いたことがある、これはいわゆるDOGEZAというやつだ。
「まぁいい、貴官らの処遇は後回しだ。それよりアルミナくん、まだ運転できるかい?」
「もう......嫌、車怖い、二度と運転したくない」
「それは残念だ、使えればと思ったんだが......」
腕を組む少佐に、セリカが元気よく声を上げた。
「はいはーい! わたし免許持ってるッスよ少佐ー」
「そういえばそうか、なら君たちが使うといい」
へ......? 使う?
「セリカくんは運転手、次いでエルドくんとオオミナトくんが乗りたまえ」
「えっ、俺たちだけで先行ですか!?」
「僕が大隊を放棄するのはマズいだろう? スピード勝負だ、早く乗った乗った」
否応なしに、俺たちは車に乗った。
いやなんだよこれ、天井無くなってんぞ......アルミナのヤツどんな運転でここまで登ってきたんだ?
「僕らもすぐに追いつく、先に行って女神に挨拶してやってくれ」
「了解ッス!」
エンジンをふかす。セリカ。
「そうだエルド!!」
ステアーさんが、いきなり叫んでくる。
「後部座席に転がってる魔導具はお前にピッタリの武器だ! ぜひ使ってくれ!!」
「俺にピッタリの......?」
見れば、確かにごっつい6連装の魔導具が落ちていた。
「行きますよ! エルドさん、オオミナトさん!!」
「おう!」
「はい!」
マニュアルミッションのレバーを操作し、セリカは車を発進させた。
目指すは頂上、このまま一気に行く......!!