第318話 ユグドラシル進撃
ユグドラシルの中は本当に未知の空間で、道中には別の世界や時代を移した泡だったり、時計の針のようなものがあったりでとにかく人智を超えていた。
......が。
「ハッハッハッハッ!! 進め進めぇっ!! この大隊に臆病者はなし! 我らユグドラシルを踏破する、最初で最後、最強にして最凶のパーティーだ!」
優雅に歩く少佐の前に立ち、俺とセリカとオオミナトは先頭を切り開く。
「あれは......、完全にハイになっちゃってるッスよ少佐......」
「女神を殺す日がきて嬉しいんだろうよ、本当ならここは攻略不可能のクソゲーダンジョンだが、お生憎様」
飛んできたガーディアンを、トレンチガンのスラムファイアで蜂の巣にする。
たぶん、敵の鎧はフルエンチャの最高位防具だ。
普通の冒険者なら全く歯が立たないだろう。
「でもこっちは国営パーティーだ! 剣や弓とは違うんだよ!!」
個人の財布ではなく、国家予算から捻出された莫大な金を使える最強の集団。
勝てる戦争、勝てるパーティーで最強の敵をぶっ倒す、これこそが黄金の戦略だ。
「エルドさん! 新手です!」
セリカが叫んだ先には、壁から現れたガーディアンが4体。
これまでの細身に剣を持ったタイプと違い、デカイ体躯にハンマーを持っていた。
後ろにはデカイ扉があり、いわゆる門番というやつだろう。
「侵入者よ、ここは神聖なる領域である......即刻タチサレ」
おぉ、喋った。
でもたぶんこいつら並のダンジョンのボスより強いぞ。
「立ち去れだそうですよ少佐」
「言葉を話せるとは素晴らしい、非文明的な暴力ではなく、知的生命体として有益で平和的な交渉ができそうだ」
「じゃあ少佐、ここは紳士らしく話し合いを致しますか?」
「そうしようか、やれ!」
少佐が右手を前に出す。
火炎放射器を持った部隊が、一斉に猛炎を発射した。
きっと少佐の言う紳士とは、出合い頭に粘度の高い炎をぶちまけることなのだろう。
「我らガーディアン......! 守るべき者のため、死をもってでも貴様らを止める」
どうやら火炎放射の効果はいまひとつのようだ。
ごっついハンマーを持って、戦車のようにこちらへ押し寄せてくる。
「守るべきもの? さすがガーディアンだ、絶対的な守護戦士系はどの世界でも評判だろうね」
ラインメタル少佐は笑いながらハンドサインを送る。
前へ駆け出した俺へ、後ろのオオミナトが風を集めた。
「『ウインド・インパクト』!!」
俺は背中を叩いた強烈な追い風を受け、加速しながらガーディアン軍団に突っ込んだ。
「おっらぁッ!!!」
『身体能力強化』を発動。
縦一列になっていたガーディアン共を、扉ごと蹴り飛ばした。
そういえば、同じような戦術を教会の亜人へやったっけ。
「セリカ!」
続いて走ってきたセリカが、空中で振りかぶり――――
「せぇやぁッ!!!」
立て続けにガーディアンの首をチョンパした。
もちろんナイフではない、エンピである。
俺たちは装飾豊かな広間へ突入した。
「ここは中間的な部屋か、向こうの開いてる扉を抜けたら外壁沿いの回廊へ行けるようだ」
「ならサッサと行きましょう少佐! 時間がありません」
ポイントマンとして先行しようとするセリカ。
だが、俺は彼女の影がいつもより濃いことに気づいた。
悪寒が走り――――――
「ちっ!!」
「いったぁっ!?」
彼女をその場から蹴り飛ばした。
ゴロゴロと転がったセリカが「なにするんですか!」と抗議してくるが、彼女はすぐさま顔色を変える。
「あれ......、なんでわたしの影がそこに?」
セリカは俺が吹っ飛ばしたのに、影だけが不気味に床へ残っていた
「これはこれはなんという不幸、さすがにそううまくはいきませんか」
影はゆっくりと三次元になり、やがて人型を形成した。
「1人くらいは殺せると思ったんですがねぇ」
この奇っ怪なスキンヘッドの男に、俺たちは見覚えがあった。
遡ること――――それはオオミナトと出会ったばかりの頃。
例のストーカーだった冒険者クロムとの騒動の間に、セリカとオオミナトを殺そうとした魔王軍最高幹部。
「やぁヒューモラスくん、久しぶりだねぇ」
「勇者ジーク・ラインメタル......、本当にあなたには煮え湯を飲まされてばかりですよ」
「美味いだろう? 感謝してくれてもいいんだよ?」
「実に不愉快な男ですなぁ、今ここで決着をつけますか? 女神に会う前に死ぬかもですがね」
「いいだろう、部下が出るまでもない」
ラインメタル少佐とヒューモラスが対峙しようと前に出るが――――
「やっと見つけたぁッ!!!」
床がブチ破られ、2人の間に桃色の長い髪を持った少女が割り込んだ。
見覚えがあるどころではない、それは共闘しているめちゃくちゃ強い吸血鬼。
「お前かよエルミナ!?」
「おひさーエルド、取り込み中だった?」
「まぁな、お前こそ随分いきなりだな......扉は使わないのか?」
「登んのが面倒だったし、それより――――」
振り返ったエルミナは、ご機嫌そうにヒューモラスを見た。
「こいつはアタシの獲物よ、最高幹部のケツは最高幹部が拭く。それが義理ってもんだから」