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第316話 前へ往く者、見届ける者

 

 私が――――ミリア第4級将軍として初めて魔王城を訪れたのは、数年前の戦争で勇者に敗れ、ネロスフィアが地中に隠れ潜んでいた時だった。


 あの時の得も言われぬ空気というか、敗戦ムードは今でも忘れることができない。

 当たり前だ、たった1人の勇者に何万という軍勢が敗北したのだから。


『魔王軍は強くならねばならない! これは撤退ではない、戦力を蓄えるための致し方ない待機なのだ! だからこそ、我々7階級将軍は身を粉にして挺身せねばならん』


 そうギラン第1級将軍が言っていたのが懐かしい。

 正直、親を戦争で亡くして独り身だった当時、私はそれを冷ややかな目で見ていた。


 だってどうでもよかったもの、守るものがないのに何を糧に戦えばいいわけ?

 おまけに私は、勇者と戦ってみて自分の無力さを痛感してしまっていた。


 撃ち出した上級魔法が、アッサリ剣で薙ぎ払われた絶望感。

 杖を折られてひざまずいた私に、勇者は命を奪うことなく横を通り過ぎながら呟いた。


「今日の晩御飯は何にしようかねぇ」


 屈辱だった。

 それは戦いの感想でも、情を込めた哀れみでもない。

 こちらが一世一代の大決戦を仕掛けたというのに、あの勇者は夕食のことを考えていたのだ。


 魔王軍一の魔導士なのに、魔王様を守る砦だったのに。

 アイツにとっては石ころを蹴っ飛ばすのと大差なかったのだ。


 結果は魔王軍の惨敗......、だからネロスフィアは地下に逃げ籠もった。

 何年も掛けて、使える魔族を引き入れていった。


 当初は無気力だったけど、いざ仕事としてやってみると案外熱が入る。

 こうして私は、勇者たちとの2回目の戦争をおっ始めた。


 結果だけ言うわ。

 1回目を超える大敗北の連続だった。

 あれほど息巻いていたギラン将軍は開戦と同時にいきなり死んじゃうし、ウォストピアを管轄していたアーク将軍も更迭されたと聞く。


 ロード将軍も死に、ブレスト将軍は亡命。

 そして、再び魔王城へ乗り込んできた勇者によってクラーク将軍が殺された。


 残ったのは私とジェラルドだけ。


 まぁ、こんないきさつがあって私たちは初めて自分が天界とやらの駒に過ぎないと知った。

 リーリスから聞いた時は、まぁまぁショックだった。


 だからこそ。


「こっちは着いたわジェラルド」

「俺もだミリア、さぁ――――準備しよう」


 残り2時間に集約された寿命を使って、最後に魔族のための仕事をしようと思う。

 外からは騒がしい爆発音が、脚部の装甲を叩いていた。


「なぁミリア」

「どうしたの?」


 最後の瞬間を前に、ジェラルドが念波を用いて聞いてきた。

 彼は今、私と同様にネロスフィアの端っこにいる。

 もうお互いの顔を見ることはできない。


「お前は魔王様の下で働けて幸せだったか?」


 そんな質問か......、こいつも案外気にしてたのね。


「無論よジェラルド、私は魔王様がいたからこそここまで生きてきた。これからすることも魔王様の意思に従うためよ」

「そうか、魔王様も......無事だといいな」

「あの方はあのかたで、きっとご自分なりの答えを見つけ出すわ。だから......」


 私は恐怖と一緒に空気を呑み込む。


「残りは全て、アルミナ様とエルミナ様......亡命したブレストに任せましょう」

「まぁ、それが妥当だな」


 体中の魔力を引き上げる。

 血がドンドン熱くなり、心臓の鼓動が速くなった。


「なぁミリア......」

「なんですかジェラルド」


 最期の会話。

 彼は意を決したように言葉を送ってきた。


「前々から貴様のことが好きだった、もしまたどこかで出会えたら――――俺と一緒に過ごしてほしい」


 あらやだ、強面に反してピュアピュアなやつだった。

 彼の言葉を受け取った私は、全身の魔力の制御を解きながら返す。


「はいはい、同僚になってあげるわよ」

「ならそれでいい、じゃあな......ミリア第4級将軍。今までありがとう、楽しい仕事だった」

「こちらこそ、親愛なるジェラルド将軍......」


 私たち2人の体が、勇者の魔力に耐えられず限界を迎えた。

 膨大な魔力の奔流は、私たちの体を裂いてネロスフィアの脚部を内側から暴れまわった。


 良い人生だった。


 ◆


「こちら観測班! ネロスフィアの左右脚部で大爆発が発生! 侵攻速度低下!」

「なんだと!? 列車砲の爆発か!?」

「いえ、列車砲はまだ弾着していません! どちらにせよこれが最後のチャンスです!」

「ウォストピア戦闘団全部隊に伝達! 列車砲の弾着に合わせて一斉攻撃! しくじるなよ!」


 陣地転換を終えた戦車部隊が、大量の砲を指向する。

 ネロスフィア脚部は、内側からの爆発で中身が露出していた。


「80センチ列車砲、弾着18秒前!!」

「TOT射撃! 15榴斉射!!」

「12榴発射ッ!!」


 後方からの砲弾が、空中で足並みをそろえた。


「発射用意――――撃てッ!!」


 地域一帯が揺れるほどの全力射撃を、戦車軍団が行った。

 4.8トン榴弾、155ミリ榴弾、120ミリ榴弾、88ミリ砲弾等が同時に目標へ向かう。


 全ての砲弾は、1秒のズレもなくネロスフィアの脚部それぞれ4本に直撃した。

 関節部が砕け、圧倒的な重さを支えていた自走システムが粉砕された。


「やったぞ!!!」


 支えを失った巨大な都市が、ゆっくりと地面に着地した。

 残っていた2本の足で支えきれるはずもなく、ネロスフィアは完全に動きを止めた。


 戦闘団司令部は歓喜に包まれる。


「止めたぞぉッ!!!」

「やるじゃねーかお前ら! 見直したぞ!!」

「連合国軍総司令部に通信! "聖杯は砕かれた" 繰り返す! 聖杯は砕かれた!! 魔都ネロスフィアは侵攻を停止せり!!」


 戦闘団長は、すぐさま命令を下した。


「全部隊前進! 魔都ネロスフィアに乗り込み、徹底的に制圧しろ!!」

「いけいけいけぇっ!!!」


 工兵の魔導士大隊が、土属性魔法で戦車すら一時的に通れる橋を何本も造った。


「兵隊は走ることこそ本望っ! 共産主義者に遅れを取るな!!


 連合国軍の大部隊が、続々とネロスフィアへ流れ込んだ。


 命を賭して散っていった将軍2人の功績は、後にアルミナによって連合国軍へ知れ渡ることになる。

 2人の将軍は、魔族のための最後の仕事を完遂したのだ。


あぁ......そうか、もうこれであの楽しかった無能将軍会議は二度と書けないのか。

結構辛ぇ......、考えたキャラがドンドン死んでく、役目を終えていく。

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― 新着の感想 ―
あとがきより 作者様の作品やキャラへの愛が伝わりました。 読者側からするとカタルシスを感じるような展開でも、どんな悪役でも何でも作者側からすると消えていく、キャラを消してでも面白い話を届けてくれると…
[良い点] ここはトミノ監督なみにminagorosiだ [気になる点] 負け戦だといいやつから退場するな [一言] 同時弾着射撃とは高度なこと 前部隊に同期した時計があるのか
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