第315話 ネロスフィアVSウォストピア戦闘団
戦いは数だよ
『ワルキューレ01よりコントロール、目標視認! 攻撃を開始する!!』
青空を埋めるワイバーンの大編隊が、魔都ネロスフィアを補足した。
『こちらコントロール、市街地エリアおよびユグドラシルには友軍が存在している。攻撃は脚部に集中せよ』
『ワルキューレ了解、全騎! 急降下攻撃開始!!』
まず80騎のワイバーンが、左右中央の脚部目掛けて火炎弾を放った。
高温のそれは木造家屋なら一瞬で燃やし尽くすが、これだけの数で撃っても強靭な目標は、表面しか焦がすことができない。
「火炎弾、効果なし! 次は至近距離から浴びせろ!」
取り付いたワイバーンたちは、関節部へカスバーナーのような火炎放射をぶつけた。
少しでも溶断の可能性があればと思っての攻撃だが、いかんせん相手はデカ過ぎた。
「駄目です航空中隊長! 表面を焦がすだけです!」
「やっぱり無理か......。こちらワルキューレ01、火炎弾、火炎放射共に効果なし!」
『コントロールよりワルキューレ、ただちに離脱せよ。第7爆撃飛行艦隊が攻撃を開始する』
「了解! 全騎離脱!」
ワイバーンたちが空へ待避したのを見届けた12隻の爆撃飛行船は、ネロスフィア正面で反扇状に陣形を組んだ。
「ノア01より艦隊各艦へ、"誘導弾"発射準備! 目標正面! ネロスフィア脚部!」
この爆撃飛行船は、大型爆弾を搭載しえる程にペイロードがある。
そこで、ガレリア工廠にて開発されていた『V−1』を搭載できないかと研究された。
結果から言おう、搭載は可能であった。
炸薬量や重量を減らすことにはなったが、魔導士に頼らない誘導を可能にして1隻につき4発搭載。
飛行船は、ミサイル爆撃機と化したのだ。
「『V1−S』発射用意――――発射ッ!!」
魔導パルスエンジンを点火、12隻の飛行船から一斉にミサイルが放たれた。
「出し惜しむなっ!! 撃ち尽くせっ!!」
誘導性能を強化しただけあって、魔導士なしでもミサイルは全弾脚部へ命中。
爆発音が響き渡った。
地上の観測班が、双眼鏡で効果を確認する。
「誘導弾全弾命中! しかし目標の損害軽微! なお前進中!」
「航空隊の攻撃では足止めすら無理か、まぁあの大きさだしな......」
攻撃を終えた飛行船たちが、一斉に左右へ散る。
開けた視界に射線を通したのは、河川両岸に展開した750両の戦車軍団だった。
砲塔を旋回し、88ミリ砲を始めとする様々な戦車砲がネロスフィアに向けられた。
「ティーガー1よりティーガー中隊、目標、ネロスフィア脚部、対榴、中隊集中、指名!」
王国、連邦の戦車部隊が照準をつけ――――
「撃てっ!!!」
――――ドゴガゴゴゴガアァンッ――――!!!!!
大地を揺らすほどの一斉射撃。
河川敷が火事になったのかと見紛うほどの発砲炎が瞬き、700以上の砲弾がネロスフィア脚部に命中した。
「命中! 続いて撃てっ!!」
再び発砲。
装填速度が各軍、各車両ごとに手動でバラバラなので、ここからは自由発砲となった。
「ネロスフィア! 侵攻速度低下! 脚部の部品が崩れ落ちています!!」
「効果ありだ! 第2砲兵軍に繋げ! 砲撃開始!!」
後方に展開していた155ミリ榴弾砲が、次々に火を吹いた。
ブドウ畑一面に展開していたため、爆風が畑を揺らした。
「弾着10秒前!」
戦車部隊の砲撃を飛び越え、砲弾は放物線状に飛翔した。
「3、2、1――――――インパクト!!!」
一部が市街地エリアに落ちてしまったが、9割以上の榴弾がネロスフィアの脚部へ命中。
堅牢な装甲にヒビが走った。
「畳みかけろ! ミハイル連邦軍に連絡! ロケット攻撃開始!!」
――――バシュシュシュシュシュシュシュッ――――!!!
戦線両側面に展開していたカチューシャ多連装ロケット砲が、100両同時に一斉発射。
雨のように降り注いだロケット弾が、戦車砲と混じって爆発の奔流を生み出した。
「効果あり! が、目標未だ侵攻停止せず!」
「前衛部隊! 陣地転換準備!」
ネロスフィアに近い川岸の戦車部隊が、車体を超信地旋回で捻りながら離脱の準備を図る。
「ウォストアリーナ演習場の戦略ミサイル連隊に伝達! 攻撃開始!!」
遥か遠方の演習場から、次々に『V−1』が発射された。
この部隊は、ラインメタル少佐を魔王城まで運ぶ手伝いをした者たちだ。
専用レール群から、40発のミサイルが空へ飛んでいく。
「ネロスフィア! 絶対停止ラインに侵入!!」
「作戦最終段階に移行!! 戦車部隊は陣地転換! ウォストセントラルへ伝達せよ!!」
旋回を終えていた戦車軍団が、急発進する。
『V−1』が矢継ぎ早に着弾する中、中隊長は通信を取った。
「ティーガー全車! こちら中隊長! 全車陣地転換! 繰り返す! 全車陣地転換!!」
行進間射撃を行いながら、戦車部隊は中央から退避を始める。
その頃、市民の避難に奔走していたウォストセントラルには王国軍最大最強の兵器が待機していた。
「戦闘団司令部より通信! 最終攻撃開始!!」
「了解!!」
車両用レールの上に鎮座していたのは、列車自体に規格外の砲を搭載した対要塞専用兵器。
「『80センチ列車砲』! 一番列車砲! 二番列車砲! 発射準備よし!!」
王国本土から持ってきたこれは、かつて魔王軍の"移動要塞スカー"を葬り去った決戦兵器だった。
「発射用意――――――撃てっ!!!」
ウォストセントラル全域に、聞いたこともないような爆音が駆け回った。