第310話 ニューゲート開通
――――ユグドラシル頂上部。
「遂にこの時が来ましたね、アルナ様」
世界樹の頂点――――蒼天から地上を見下ろすこの場所で、女神アルナは掛けられた声に振り向いた。
「リーリスか、無事に来れたようだな」
立っていたのは、心臓部分に穴を開けた金髪の天使――――リーリス・ラインメタルだった。
彼女の顔は幸せに満ちており、ようやく叶う野望に胸を膨らませていた。
「とうとうアルナ様が、全ての世界線の神になられるのですね」
「ここまでよく頑張ってくれた。心臓を抜き取ってしまって悪かったな。痛むか?」
「わたしがアルナ様に忠誠を誓ってから、この肉体は全て貴方のものです。痛みなど......些細なものです」
跪いたリーリスは、顔を上げた。
「さぁ! 世界樹は復活しました! 儀式の最終段階へ移りましょう!」
「うむ、ではそうしようか。ホムンクルスの準備は?」
「吸血鬼と異世界人の手により相当数が倒されましたが、儀式執行に問題はありません」
「なら......始めよう!」
女神アルナの瞳が、金色に強く輝いた。
上空の魔法陣も呼応して点滅する。
「世界樹とは......点在する全ての世界の根幹たる存在、枝葉に寄り添う世界へのアクセス権は......今、この私にある!」
魔法陣の色が金色に染まる。
主人がこの世の理を破壊する様子を、リーリス・ラインメタルはジッと見つめていた。
「まずはこの世界に最も近い世界を繋げる! 異世界人がやってくるだけの歪みがあれば、十分可能! さぁニューゲートよ......開通せよっ!!」
地震と共に、上空の魔法陣がゆっくりと色を変えていく。
さながらそれは、別世界を映す"窓"のようだった。
「リーリス!! ロックを!」
「はっ!!」
魔都に埋もれていた第2世代ホムンクルスたちが、次々とユグドラシルの頂点まで引き上げられ――――
「勇者の代替品よ......、この世界と――――遥か遠い世界......地球を繋げ、空間座標をロックせよ!!」
天使の操作で、ホムンクルスたちが魔法陣の周囲に張り付いた。
やがてそれらは円陣となり、周囲をゆっくり回転する。
「ホムンクルスの製造はこの日この時のため、ウォストピアの亜人勇者の魂を使い、世界と世界のハシゴとして機能させる。これこそが"第3世代ホムンクルス"だ!」
天空に雷鳴が轟くと同時に、ニューゲートは空ではない全く別の景色を映し出した。
巨大な窓の外から見えるのは、見たこともないくらい発展した都市。
名を――――――日本国首都『東京』だった。
「さぁ頂こうか地球人、貴様らの、貴様らの崇める神への信仰を。全て奪い尽くしてやる!!」
――――ゴーン......ゴーン――――!
歩行するネロスフィアを中心に、世界中へ鐘の音が広がった。