第31話 女の嫉妬とは怖いものです
コローナ駐屯地の屋外射撃場、俺とセリカは長身のライフルを横並びで構えていた。
「で、どうするんですか?」
晴天の下、演習用の的にライフル弾を撃ったセリカが俺を横目で見てくる。
コッキングの動作が少々荒いので、不機嫌だと予測される。
「どうするもなにも、お前ならあの状況で断れたのか?」
スコープ越しに的の中央へ弾を放った。
命中し、的に風穴が開く。
昨日の朝オオミナトから頼まれたこと、それは一瞬で良いから恋人のフリをしてくれとのことだった。
当然聞いた、なぜだと。
いわく彼女は急激に名を上げたばかりに、その端正な顔立ちも相まってかある人物に求婚されているらしい。
その人物が――――
「クロム・グリーンフィールド。また厄介なヤツに目をつけられたもんです。まさかオオミナトさんに初見で求婚するとは......変わってませんね」
再び的を撃ち抜くセリカ。
射撃の轟音が鳴り終わると、俺もレバーを操作して次弾を送り込む。
「知り合いなのか?」
「えぇ、まだわたしが冒険者だった頃に有名だったクソッタレ女たらしッスよ。自分へ振り向かせるためなら非情な手段を選ばないとも聞きます」
「じゃあなおさら放っておけんだろ? そいつの前で、とりあえず恋人ヅラしてりゃ良い話なんだから」
「そうですけど、なにもエルドさんがやんなくても......」
昨日からどうもセリカの様子がおかしい。
その女たらし冒険者が嫌いならわかるが、なぜこうも不機嫌なのだろう。
連続で穿たれる弾丸は、彼女の胸中を現しているようだった。
怒りというよりもっと別の、さらに深い感情はまるで――――
「お前......もしかして嫉妬してる?」
「はぁっ!? バカ抜かしてると徹甲弾でブチ抜きますよ? 別に嫉妬なんてしてませんし、そもそもエルドさんに興味なんて、わたし全く無いですし――――」
言いながら弾薬を装填しようとするセリカ。
だが、その手付きは明らかにおかしく、震えた手から弾薬クリップが落っこちた。
「あぅっ!?」
「おいおい落ちたぞ? ったくらしくないな......ほら」
「......ありがとう、......ございます」
まさか不機嫌の正体がホントに嫉妬とは......、尾を引いては困るという思いもあって、俺は弾を渡すと同時にセリカの手を掴んだ。
「やっ、ちょ!? エルドさんっ!?」
「よく聞けセリカ、俺は確かにオオミナトさんと付き合うフリをする。だが勘違いするな、俺にとってお前は唯一無二の存在だ」
ここまで来たら言ってやろう、俺の本音を――――
「そ......、それってつまり?」
やけに大人しくなったセリカへ、俺は顔を近づけた。
「いいか、7.62ミリ機関銃について熱く語れる趣味友はお前だけだ。同じミリオタとしてお前はかけがえのない大切な趣味友なんだよ!」
「......期待したわたしがバカでした」
「なんだ、違ったか?」
「違わないッスよ、あなたはわたしだけのかけがえのない趣味友です」
まぁ不機嫌は治ったみたいなので、結果オーライとしよう。
「やぁお二人さん、何やら面倒事に巻き込まれたようじゃないか」
「ラインメタル少佐? どうして射撃場へ......」
「今日は2人に見せたいものがあってね、この木箱を開けてごらんよ」
厳重に梱包された木箱を開けると、そこには見たことのないタイプの銃が入っていた。
「現代ライフルの進化版......自動小銃とでも呼ぼうか。我が隊で試験的に運用することとなった。そして新生魔王軍についても――――2人に話しておきたい」
少佐の頬は、ショーの始まる子供のように吊り上がっていた。




