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第309話 ユグドラシル現出

 

 上空に浮かんでいた魔法陣に警戒しながら進んでいた俺たちは、魔王城まであと少しのところに来たところで、全く予想していなかったものに襲われた。


「正面100! なにか来るッス!!」


 セリカの報告で立ち止まった俺は、すぐさま目を凝らした。


「なんだよ......あれっ!?」


 盛り上がった地面から出てきたのは、大量の金色に輝く根っこだった。

 それらは蛇のように、街全体へ広がってきた。


「きゃああ!」

「うわあああっ!!?」


 根っこはネロスフィアの魔族に絡みつくと、次々に締め上げた。

 ありえない光景だった、捕まった魔族たちが一瞬で干からびていく。


 それだけではない、建物ですら瞬く間に押し潰され――――跡形もなく消え去っていく。


「総員散れ! あの根っこは生き物を狙いつつ広がっている! 自身の生命保持を最優先せよ!」


 ヘッケラー大尉の指示で、レーヴァテイン大隊は決死の抵抗を開始した。


「近づけるな!! 撃ちまくれッ!!!」


 最前列に全ての《MG42》マシンガンを据え付け、根っこに猛烈な射撃を加える。

 次々に引きちぎられるが、これでは大火にジョウロで水を注ぐようなものだった。


「寄せ付けるな!」


 俺はトレンチガンに炸裂魔法をエンチャントし、撃ちまくった。

 この銃には"スラムファイア"と呼ばれる機能があり、一度射撃すればあとは引き金をひきながらフォアエンドを往復させるだけで、ハンマーが動き連続発射が可能となる。


「ちっ、リロード!!」


 が、ショットガンの弾数などたかが知れている。

 すぐに弾切れを起こし、俺は無防備となった。


「そこをカバーするのがわたしの役目ッスよ!!」


 俺を飲み込もうとした根っこを、セリカがエンピで斬り刻んだ。

 さすがは元剣士職の上級冒険者......、攻撃の余波は後続の根っこにまで及んでいた。


「今だっ! MG班は銃身を交換せよ!」


 マシンガンは、連続した射撃を得意とするが銃身が加熱しやすい。

 もしオーバーヒートを起こしてしまえば、弾の精度が大きく低下するほか、最悪発射不能となってしまう。


 それでもここにいるのは、全員ラインメタル少佐が選んだ王国軍の精鋭たち。

 慣れた手付きで予備銃身を取り出し、僅か数秒で作業を終えてしまう。


「出し惜しむな!!」


 俺を含め、後衛連中が一斉に腰の手りゅう弾を掴んだ。


「3、2――――今っ!!」


 全員で手りゅう弾を放り投げる。

 再び侵攻しようとしていた根っこは、爆発の壁によって阻まれる。


「ヘッケラー中隊長! 座礁中の《ダイヤモンド》周辺までは根っこが来ていないそうです!」

「ダメだっ! 距離があり過ぎる......! 今更後退しても間に合わん! ここでしのぐぞっ!! 少佐殿が既にオオミナトくんとこちらへ向かっているとのことだ」

「えっ!? オオミナトさん生きてるんッスか!? 大尉!」

「通信によるとな! だが根っこに追われながら魔王城内を突っ走っているらしい」


 良かった、オオミナトは少佐と合流していたか。

 ならひとまずは、こっちの問題が先決だ。


 既に周囲は根っこの海状態。

 前に火力を集中しても、これでは側面からやられる。いつか突破されてしまうだろう。

 俺たちは、渋っていた秘密兵器を投入することにした。


「所詮は根っこだ! 焼き尽くしてやれっ!! 火炎放射器隊! 前へっ!!」


 市街戦の虎の子――――《火炎放射器》だ。

 できればとっておきたかったが、この異常事態だ......ここで使わずしていつ使う。


「ヒャッハーっ!!」


 汚物を焼き払わんとする勢いで、隊員が全周に業火を撒き散らす。

 可燃性なのだろう、一気に燃え上がっておりかなり時間は稼げそうだった。


「大尉! 少佐は!?」

「間もなく現着っ! 3、2――――1!!」


 ヘッケラー大尉の声と共に、崩落を開始した魔王城から誰かが飛び出した。

 男は、人を担ぎながらまだ残っていた建物と根っこを踏み台にし――――――俺たちのド真ん中へ着地した。


「久しぶりだね大隊諸君、全員無傷だな大尉?」

「少佐! オオミナトさん!!」


 セリカが駆け寄る。

 少佐が抱えていたのは、傷だらけのオオミナトだったようだ。

 っといっても、降ろされた彼女は一応元気そうである。


「隊をいきなりほっぽらかさないでください少佐! 1人で敵の根拠地に乗り込むなど正気ではありませんよ!」


 ヘッケラー大尉が、アサルトライフルを撃ちまくりながら文句を叫ぶ。


「ハッハッハ! いやはやスマンね、説教は帰ったら聞くよ」


 突っ込んできた根っこを、少佐は寸分違わぬ狙いで撃ち抜いた。


「しかしエルドくん! このままでは突破されると思わないかい?」

「......なにが言いたいんです?」

「君はさっきまで僕とオオミナトくんが魔王城にいたから、ずっと手加減していた......違うかい?」

「さすが......、お見通しですね」


 トレンチガンに弾を込める。


「もう憂いはないだろう? 思いっきりやってくれ」


 少佐の声に、俺はフォアエンドをガチャンと動かすことで肯定する。


「――――了解」

「みんな僕の後ろに下がれー、エルドくんが本気を出すぞ」


 ニヤニヤする少佐を背に、俺は迫りくる大量の根っこへトレンチガンを向けた。

 全く、いつだってここは過重労働上等の国営ブラックだ......。


 俺の能力を引き出すことしか考えてない。


「エンチャント――――――」


 だからこそ、社畜として応えよう!


「『爆裂魔法付与エクスプロージョン』!!!」


 引き金をひく。

 放たれた散弾は、その小粒全てに榴弾砲顔負けの爆発力がエンチャントされていた。


 通常の魔導士がやれば絶命待ったなしの攻撃は、根っこ群をまるごと爆炎で覆い尽くし、崩落した魔王城まで爆発の連鎖がぶち抜く。


 ――――ダァンッダァンッ――――!!!


 さらに発射。

 側面の根っこを市街地ごと連続で吹き飛ばし、最後は――――


 ――――ダァンッ――――!!!


 魔王城への道を塞いでいた根っこ群を、地面もろとも消し飛ばした。


「凄い......」


 少佐に守られていたオオミナトが、一言つぶやいていた。

 俺たちの周囲と進路上から、根っこや障害物が消え去る。


「さて、見晴らしもよくなった。これで全てが見えるぞ」


 ラインメタル少佐が前へ出た直後、魔王城だった瓦礫の山が噴火のように弾け飛んだ。


「頼むよエルドくん」

「だークソッ! 了解!!」


 急いで障壁を展開。

 飛んでくる破片からみんなを守った。


「みんな見たまえ、これが......我々に立ち塞がる最後の試練だ」


 根っこの正体は、全て地面に落ちたエーテルスフィアから発生していた。

 そして......ヒビだらけだった赤色のクリスタルが砕けた。


「なッ!!」


 俺たちは......いや、魔都全域が影に覆われた。

 雲ではない、俺たちの目の前に超巨大な"塔"が出現したのだ。


「これは......!?」


 眼前の塔はこの世のどんな建物よりも高く大きく、外見も禍々しいものだった。

 形容するならば......城を縦に伸ばしたかのようだった。


「大隊諸君! 我らはこれより人類未踏の領域――――世界最強の神が造りしダンジョンに挑むっ! 僕はこの日、このためにレーヴァテイン大隊を創設した! さぁ、存分に暴れまわるぞッ!! 忌々しき神を......豚のエサにでも加工してやれッ!!!」


 ラインメタル少佐が高々に宣言。

 ウォーモンガー集団のレーヴァテイン大隊は、全員が銃やエンピを掲げて呼応した。


「目標! 世界樹ユグドラシル! 殺害目標は天使並びに女神アルナ!! 国営パーティー! 突入せよっ!!」


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