第306話 2人のレーヴァテイン大隊員はお宝を拾う
少佐が叩き落としたエーテルスフィアは、魔王城を頂点から破壊し尽くした。
爆砕の奔流は真上から滝のように襲い掛かり、まるでプリンを押し潰したかのような勢いで広がった。
「ちょっ!!」
「なんと!?」
コントロールルームで死闘を繰り広げていた吸血鬼エルミナ、同じく最高幹部ヒューモラスも、このありえない事象に目を丸くした。
至近距離で取っ組み合っていたら、いきなり天井がまるごと落ちてきたのだから無理もない。
「あのクソ勇者なにしたのよ――――!!!」
身を翻し、エルミナはその場から飛び退いた。
その際にヒューモラスを思い切り蹴っ飛ばす。
「なっ! ズルいですよエルミナさん!? あなただけ逃げるおつもりですか!」
「うっさい! 誰がお前なんかと心中するか! アンタだけ潰れてろ!!」
抜けた床ごと、ヒューモラスが落下していく。
エルミナもしばらく落下したが、エーテルスフィアを蹴って横に飛ぶことで圧死を回避した。
――――
「エルドさん! あれ!!」
大通りをポイントマンとして先行していたセリカが、指を差しながら止まる。
言われなくても、なにが起きているかはわかる。
俺は通信を繋げた。
「こちらエルド! ヘッケラー大尉見えますか!?」
「あぁ見えている! 壮観だな......あの規模の物体が城に落下するとは......」
「えぇ、間違いなく少佐の仕業でしょう」
「気がかりでもあるんッスか?」
セリカが通信に割って入る。
すぐ横にいるのに。
「突っ走ったオオミナトの安否が不明だ、おそらく......やられた可能性がある」
「えぇ――――!? オオミナトさん修行でめちゃめちゃ強くなってたじゃないッスか、まさか女神にタイマン挑んで負けたんです!?」
「十中八九それで間違いない、さっきオオミナトよりデカい魔力の塊がいきなり現れて......代わりに彼女の魔力をほとんど感じなくなった。気絶してるか――――最悪死んだか」
「嘘......」
考えたくないが他に可能性がない。
もしかしたら、あの落下したエーテルスフィアに押し潰されているかもしれん。
こんなところでモタモタしていられない......!!
「おい! いたぞ!!」
「ッ!?」
曲がり角から、盾を横隊で構えた敵が現れる。
その後ろには間隔を開けて魔導士たちが杖を構えていた。
「こちら第36警備大隊、上陸した王国軍と思しき兵士数名を発見! 交戦する!」
「こちらセリカ! 武装した敵小隊認む!」
敵とセリカ、両方の報告が混じった。
あいつらはブレスト将軍から聞いている、確か第7軍団の首都防衛師団だ。
俺がショットガンを持って突撃態勢を取ると同時に、セリカが通信に叫んだ。
「MG班! 前へっ!!」
3名の随伴していた兵士が、《MG42》マシンガンを腰で構えた。
この銃は、1分間に1200連射という恐ろしい速度で発射する王国軍の主力機関銃だ。
軍内では、蒼国の魔導ノコギリなんて呼ばれている。
「こちら中隊長、火力支援の要を認む! エルドくんを掩護せよ!」
「撃てッ!!」
マシンガンの曳光弾と共に、俺は走りながらショットガンを放った。
――――――――
エルドたちが進撃を続けているのと同じ時間......機関銃の銃声から数ブロック離れたところに、2人のレーヴァテイン大隊員がいた。
「いいんですかステアーさん、隊長やエルドたちを掩護しなくて」
敬語でそう言ったのは、王国製アサルトライフル――――《STG44》を持った兵士。
外見はエルドやセリカより4個くらい上だろうか。若めである。
ちなみに軍内サブマシンガン射撃検定のトップ10常連者。
「いいんだよシグ兵士長、魔都ネロスフィアなんて滅多に来れないんだぜ? ラインメタル少佐たち前大戦の勇者パーティーに次いで2番乗りだ」
陽気に答えたのは、今さっきステアーと呼ばれた男。
こちらの得物はスナイパーライフルの《Kar98K》、木製の細身なボディが特徴的な7.92ミリを使うライフル。
彼も、軍内で行われるライフル検定に毎年10位内には入る猛者。
そんなステアーは、銃声の鳴る方を見ながら怪訝そうな顔をする後輩――――シグ兵士長に言い聞かせた。
「通信内容聞いてみろよ、敵の部隊ボコボコにしてるぜ......2人抜けたところでなんも影響ないよ。それよか、魔都に眠るお宝を探した方が将来的ですらある」
お察しの通りである。
彼らは本来の持ち場を離れ、ワンチャン高価な鹵獲品がないか探していた。
もちろん、実際に職場で持ち場から無断で離れれば処分もの。
良き社会人の方々は、絶対にやってはいけません。
「ラインメタル少佐やヘッケラー大尉にバレても知りませんからね......絶対クビだ」
「戦果を上げればたぶん......許してくれるさ。あの人ら結果至上主義の権化だし......。俺はそれよかセリカ・スチュアート1士のエンピが怖いね」
「確かに、あれで殴られたら痛そうです」
呑気に雑談をしながら歩いていると、ステアーは思い切りけつまずいた。
「わっとぉ!?」
「気をつけてくださいよ、瓦礫だらけなんだから足元はよーく......」
見てみれば、ステアーがつまずいた物がそこには転がっていた。
「なんだこりゃ」
シグ兵士長が持ち上げてみる。
よくわからないが銃身らしきものが6つも付いており、重たいが頑張れば腰だめで撃てんこともない。
「なにそれ?」
「わっかんないですよ、チューブが千切れてるし高価じゃなさそうだ」
シグ兵士長がなんの気無しに魔力を込めてみる。
高価な魔力結晶を使っていれば、呼応してまばゆく輝くはずだったからだ。
――――ウィイィィイイイイイイイン――――!!!
「うおッ!?」
「銃身が回転したぞ!」
どうやら、魔力を与えれば起動するようだった。
「ステアーさん、この武器......もしかしたらそこに倒れてるヤツのじゃ?」
シグ兵士長の視線の先には、完全に伸びてしまった魔族。
吸血鬼エルミナに敗れた、オルフォート次期第7級将軍が倒れていた。
「むっ?」
背中のバックパックに目が行く。
ひょっとしたらこの千切れたチューブ、あのバックパックと繋がってたんではないだろうか。
父親が魔導杖の職人である兵士長は、すぐに用途を悟った。
「わかりましたステアーさん! これは6連装の魔導杖だ! 魔力で回転させながら攻撃魔法を撃ち出す仕組みになってる」
「ふーん、それで?」
「膨大な魔力さえあれば、MGにも負けない火力が手に入ります!」
王国では銃や砲の所持が法律で制限されている。
だが、これは魔法を発動する触媒なのであくまで魔法杖に定義できる.....。
現行の法律には抵触しない、つまりは市場で高く売れる。
火力を求める上級冒険者パーティーに、適当なこと言えばたぶん買ってくれるだろう。
「でもシグ兵士長、チューブ千切れてるしそれじゃあもう使えないんじゃね?」
言いながら、ステアーは1人の男を思い出した。
「待てよ、エルドのヤツなら使えるんじゃね? あいつ魔力無限だっただろ」
「それですよ! あいつならもっとしっかり動かせるかもしれません!」
「動かせれば、軽く改造して王都で高く売れる!!」
そうと決まれば、2人の行動は早かった。
本体を持ったのは、スリングで吊ったスナイパーライフルを担いだステアー。
シグ兵士長は、アサルトライフルでもって全周をカバーする。
「早速エルドのところに持ってこうぜ、えーと大隊の位置は......」
「魔王城に行けば会えると思いますよ、善は急げ、兵は拙速を尊ぶです!」
お気楽な兵士2人は、ルンルンとお宝? を持って魔王城を目指した。