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第304話 新生魔王アルナ

 

「異世界人の分際で......この私を殴るなど!!」


 女神アルナから汗が垂れる。

 ありえない、何かの間違いだと必死で言い聞かせた。


「はっ!!」


 その場で回転したオオミナトは、風を纏った蹴りを容赦なく眼前の女神へ打ち放った。


「ぐあぁッ!!」


 あまりにも重く、速度の乗った一撃に女神は勢いよく床を転がった。

 神々しさを演出していた顔からは鼻血が溢れ、痛みに表情を歪ませる。


「人間が......こんな力を!? 私は女神なのに......!」

「まさか、それが本気だなんて言うつもりないですよね?」

「ッ......!!」


 こうなってはもう遮二無二しゃにむに構っていられない、使える信仰は残り少ないがなんとかやり過ごさないと殺される。

 こんなことなら、力を消費してジェラルドやミリアを勇者化させなければ良かったと後悔した。


「フフ......どうやら死にたいみたいね、異世界人」


 必死で強がって見せる。

 大丈夫だ、力を出せばあんな小娘くらい......。


「出すならサッサと本気出しちゃってください、ホントにやっつけちゃいますよ」


 未だ笑みを絶やさないオオミナトを見て、女神アルナは一気に魔力を底上げした。


「はあぁッ!!」


 隠していたパワーを全て解放するが、それでもオオミナトは表情を崩さない。


「少しはマシになりましたね、じゃあやりましょうか」

「その減らず口......黙らせてくれる!」


 女神アルナの瞳から、金色のレーザーが放たれる。

 真っ直ぐ飛翔してきたそれを、オオミナトは腕で弾くと距離を詰めた。


「だあっ!!」

「がはっ!!?」


 真下からの蹴り上げを顎に食らい、女神アルナはたまらず後ずさりする。

 嘘だ......自分が、人間に押されている!?


「『ウインド・インパクト』!!」


 パンチと一緒に繰り出された魔法をもろに受け、女神は落ちていた瓦礫の山に突っ込んだ。

 身を起こし、鼻血を拭う女神を見てオオミナトは失望した。


「ホントにパワーを全開まで上げてそれですか......、魔王軍ですら敵わないって聞いてたから期待してたんですが」

「グッ......くそ!」


 目の前に座る女神は、心底悔しそうに歯ぎしりしていた。

 おそらく、自分がこうして殴られるのは初めての経験なのだろう。


「クソ! クソクソクソッ......!! 女神であるわたしが......こんな人間の女に――――」

「だあっ!!」


 喋っている最中だった女神の後頭部へ、強烈な蹴りを浴びせる。


「がぶぶっ!」


 床に顔をめり込ませ、尻を突き上げるという屈辱的な醜態を晒した。

 女神にあるまじき格好......オオミナトはガッカリしたように言う。


「無様ですね」

「ッ......!! くそああああぁぁああッ!!!」


 顔を上げた女神は、振り向きざまに再びレーザーを手から発射した。


「よっと!」


 アッサリ避けられ、顔面にまたも蹴りを受ける。


「があぁっ!!」


 ゴロゴロと転がったアルナは、儀式の最中であるリーリスの傍に倒れた。


「もういいです、女神さんもろともそこの天使も吹っ飛ばしてあげます。これでこの物語はエンドです」

「あぁ......そう」


 ヌルリと起き上がった女神アルナは、充血させた金眼をオオミナトへギョロリと向けた。

 白い衣はボロボロで、顔からは血を垂れ流している。


 誰がどう見ても、オオミナトの勝利だ。

 しかし、神はそれを認めない。


「諦めてください、こんなに歴然たる差があるんじゃわたしには絶対勝てません」

「そのよう......ねッ!!!」

「えっ!?」


 オオミナトは目を疑った。

 負けかけの女神が、祈りを捧げていたリーリスの胸を貫いたのだ。


 血が吹き出し、天使は力なくうなだれる。


「あなた......何を!?」

「感謝するわ異世界人、リーリスのところまで蹴り飛ばしてくれて......おかげで気づけた」


 リーリスの体から手を引き抜いた女神は、その右手に鼓動する心臓を掴んでいた。


「儀式の終了......ご苦労さまリーリス。あとは私がやるわ」


 その心臓を、女神アルナは口へ放り込み――――丸呑みしてしまった。

 リーリスがパタリと倒れる。


 あまりに突然の光景に、オオミナトはその場で硬直してしまう。


「ゴクッ」


 少しの沈黙の後......アルナはゆっくりとまぶたを開けた。


「本当に......ありがとう」


 爆風が駆け巡った。

 とんでもない魔力の奔流が駆け回り、既にヒビ割れていたステンドグラスが全て砕ける。


「ッぅ......!!」


 オオミナトは飛ばされないよう、なんとか風でバリアを作る。

 金色の魔力とイナズマが、玉座の間......いや、周辺の海域全体を大きく震わせた。


「『神装・アスガルドアーム』」


 女神アルナのボロボロだった衣が消え、体中のあちこちに鎧が纏わりついた。

 それは、魔王ペンデュラムが着ているものによく似ていた。


「さぁ......」


 ところどころの肌や顔の露出を除いて、アルナの重要部位は白色の鎧に覆われる。

 背中からは幾何学模様の羽が6枚生え、頭には光の輪っかが付いていた。


「......讃えなさい」


 両手を広げ、女神は新しい姿を見せつけた。


「新しい魔王にして女神――――アルナの誕生を」


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― 新着の感想 ―
[良い点] たたえる人が居なくなっても神様は存在するのか [一言] 死にかけると強くなるのね
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