第302話 圧倒、勇者ジーク・ラインメタル
「くそッ!!」
巨大な魔王城を舞台に、魔王ペンデュラムと勇者ジーク・ラインメタルは激闘を繰り広げていた。
既に直径数キロ以上の城のあちこちが崩壊しており、その凄まじさが見て取れる。
「どうしたペンデュラムくん! 玉座の間に座りっぱなしで体がなまってないかぁい!??」
悪魔のような笑顔で攻撃を繰り出すのは、王国軍レーヴァテイン大隊長ジーク・ラインメタル。
彼はほぼ素手にも関わらず、魔王ペンデュラムを圧倒していた。
「ハッハッハッハッハッハ!! 今追いつくよペンデュラムくうぅぅううううん!!!」
勇者は物理法則など知らんとばかりに、巨大な城壁の"側面"を短距離走選手がごとく突っ走っていた。
常識はずれにほどがあると、魔王は鎧の奥で表情を歪める。
「グッ......! 舐めるな勇者ぁッ!!」
左手に渾身の魔力を込める。
黒いスパークが走り、照準をラインメタル少佐に合わせた。
「消し飛べぇッ!!『ブラック・エクスプロージョン』!!」
竜のようなドス黒い爆裂魔法が、一直線に向かう。
当たればこの魔王城は半壊してしまうだろうが、もはやそんなことに構ってはいられない。
最大威力の魔法をもってしてでも、あのイカレ勇者を止めねばならないのだ。
「フンッ! ずあぁっ!!!」
「ッ!!」
壁を蹴って空中へ跳んだ少佐は、体をひねりながら爆裂魔法を足で打ち返してしまった。
それはなんの技でもない、本当にただの蹴り......。
「なにっ!?」
跳ね返された爆裂魔法が、飛行魔法で宙に浮かぶペンデュラムを掠めて遥か上空へ消える。
空の彼方で、大爆発が起きた。
「バカな......ごぶおっ!?」
ペンデュラムの顔面に、ラインメタル少佐の半長靴がめり込んだ。
「おらっしゃあッ!!」
そのまま勢いよく蹴り飛ばす。
吹っ飛んだペンデュラムへ、勇者は足元に魔法陣を出現させることで足場を作りながら追撃する。
――――ガゴンッドン! ズガガガガッ――――!!!
「しゃあッ!!」
大量の攻撃を吹っ飛びながら加えられ、ペンデュラムは空中でなすすべもなくボコボコにされる。
既に鎧のあちこちが崩れていた。
それでも、ペンデュラムは諦めずに姿勢を制御した。
「ちゃあああッ!!!」
突っ込んでくるラインメタル少佐から、金色の魔力が溢れ出す。
ペンデュラムは、魔剣を突き出すことで正面から迎え撃った。
「うおおおおおおぉぉおおおッ!!」
「はあぁッ!!!」
――――ガキイィンンッ――――!!!
魔都を揺るがすほどの衝撃波が広がる。
魔王城の残っていたガラスが砕け、爆音が響き渡る。
「が......あぁっ!?」
打ち合いを制したのは......ラインメタル少佐だった。
魔剣は空を貫き、代わりに勇者の拳が顔の鎧をひしゃげさせていた。
少佐の顔には、常に勝利を確信する余裕の表情が浮かんでいた。
「ぐっ! クソお!!」
魔剣を引き、すぐさま蹴りを勇者に繰り出す。
「おっと!」
「っ!!」
だが、むなしくも攻撃はラインメタル少佐にダメージを与えない。
空中でアッサリ足を掴まれてしまい、ペンデュラムは身動きが取れなくなる。
「これで終わったと思うなよ? うおっしゃあああああああっ!!!」
「ぐおああぁぁああああああああああッ!?」
ラインメタル少佐は、ペンデュラムの足を掴みながら空中でジャイアントスイングを繰り出した。
あまりの回転速度に、魔王に残像ができていた。
「うおおおああああぁぁぁああッ!!?」
中庭目掛けて放り投げる。
数百キロという速度で、ペンデュラムは地面に激突した。
土煙が大きく昇り、魔王城全体が揺さぶられる。
「っ!!」
なんとか起き上がろうとしたペンデュラムへ、声が掛けられた。
「これで終わりじゃないと言ったろう?」
「ぐおあっ!!」
直後、肉薄していたラインメタル少佐によって再びペンデュラムは空中高くに蹴り飛ばされる。
魔王城の上空――――赤く光るエーテルスフィアの真隣まで昇った。
「はっ!」
勇者はそれに対し、イナズマのような速度で一気に追いすがった。
「遥か道の果て――――今ぞ降り立つ主を讃えよ」
それは、選ばれし勇者が魔法を発動する際の詠唱。
クソッタレの女神を賛美することで発動する、ウォストピアの亜人勇者も使っていた超高出力光属性魔法。
ラインメタル少佐は、吹っ飛ぶペンデュラムの真上まで先回りすると右手を広げた。
「アルファ――――――」
金色の魔法陣が浮かび、絶大な光が放たれる。
「ブラスター!!」
莫大な魔力の奔流に、魔王ペンデュラムは飲み込まれた。
中庭に着弾した極太のレーザーは、周囲の建造物を軒並み破壊しながら大爆発を起こす。
大量の黒煙を上から見下ろしながら、ラインメタル少佐はつぶやく。
「君が僕に勝てない理由、そしてこれからどうすべきかを......そこでゆっくり考えるといい。ペンデュラムくん」