表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

300/380

第300話 女神アルナの恩寵

3 0 0 話!!

 

 それは、ラインメタル少佐を魔王ペンデュラムが外へ押し出し、交戦を開始してしばらく経った頃。


「ジェラルド将軍、目を覚ましなさい!」


 勇者との戦闘で、恐怖のあまり意識を失っていたジェラルドは、ミリア第4級将軍によって起こされた。


「むっ......俺は、生きて?」

「魔王様が直前で助けてくださった、今は勇者と戦っている」

「なんだと! すっ、すぐに加勢しなければ」


 起き上がったジェラルドは、しかしミリアによって静止される。


「今あなたが行っても無駄死にするだけですよ、もはや我々7階級将軍の手に負える次元ではないのです......」

「ッ.......!!」


 見れば、横には首から上を失ったクラーク将軍だった肉塊が落ちていた。

 たった一発......普通の蹴りで魔王軍の猛者が殺されてしまったのだ。


 歯ぎしりをする両者。

 2人の武器である剣と魔法杖は、無力を表現したかのように床で横たわっていた。


「全く歯が立たなかったな......、あれが勇者なのか」

「えぇ、私の磨き上げた魔法も効いてませんでした。今は敵方となったエルミナ様やアルミナ様でさえ、おそらく勝てないでしょうね」

「なんたる無力だ......! 我々には戦う資格さえないというのか!?」


 何度も床を殴るジェラルド。

 勝てなかった、歯が立たなかった、結局自分は魔王軍のお荷物なのか!?


 ひたすら問答するも答えは出ない、だが、声は唐突に掛けられた。


「悲観することはないのよ――――――2人共」

「「ッ!?」」


 振り向けば、そこには真っ白な衣服を纏った美しい女性の姿。

 輝く銀髪を腰まで伸ばし、端麗な容姿で笑みを浮かべている絶対の存在があった。


「女神......アルナ様?」

「ぎ、儀式の方は大丈夫なのですか?」


 恐る恐る口開く両将軍。

 女神は、そんな2人を見て優しく微笑む。

 もちろん、その顔は建前のもの。


「大丈夫よジェラルド、ミリア。後はもうリーリスに引き継いだから」


 女神アルナの後ろには、両手を合わせて祈りを捧げる天使がいた。

 彼女の周りにはいくつもの魔法陣が浮かんでおり、どれもが金色に瞬いている。


「申し訳ありませんアルナ様......! このジェラルド、かの勇者に全く歯が立ちませんでした」


 粛清すら覚悟しての言葉。

 だが、女神はジェラルドに優しく返事をする。


「失敗は誰にでもあるわ、あのジーク・ラインメタルですもの。今のあなたたちでは無理もないわ」


 嘘である。

 女神にとってジェラルドたちなど使い捨ての紙にすら及ばない、なぜその身を犠牲にしてでも私を守らなかった?

 よくもまぁのうのうと生きていられるものだと、アルナはドス黒いため息を吐く。


「なんという慈悲深きお言葉......。ですが、我々はどうすれば......。もはや勇者パーティーの戦いにはついていけそうにありません」


 心底落ち込む2人を見て、女神アルナは金色の瞳を向けた。


「そうね、確かに勇者たちは強敵だわ。でもそれは敵が勇者だからこそ......勇者は魔王にしか勝てない」

「どういう意味ですか?」

「敵が勇者なら、こちらも勇者を用意すればいいのよ」


 女神アルナの瞳がギッと開き、直視できないほどの魔力と光が放たれる。


「ぐおぉあッ!?」

「うあぁっ!!」


 全身を走る痛みに、ジェラルドとミリアは身をよじった。

 何かが入ってくる......! 得体のしれない力が、不気味な寄生虫のような魔力が目から侵入してくる。


「そう、これでいいのよ......」


 光が消える。

 未だボヤける視界は、恐ろしく澄んだものへと変わった。

 まるで生まれ変わったような......。


「あなたたちの潜在能力を引き出したわ、今感じているのは自分の持っていた本当の力よ」


 嘘である。

 女神アルナは見ていた、2人の瞳が金色に染まったことを。


「こ、これが俺の本当の力!? 嘘のようだ......こんなにも魔力がみなぎるなんて」

「えぇ、本当に嘘みたいです」


 嘘である。

 驚嘆する将軍たちに、女神は続けた。


「そうよ、あなたたち本来の力だからリスクなんて一切ないわ。正真正銘本物の才能よ」


 笑顔の裏で嘘を吐き続ける。

 女神アルナに才能を引き出す力など一切ない、あるのはただ対象に"信仰"を操る力を付与――――つまりは勇者にすること。


 そして、こんな即席で作られた勇者ではパワーと引き換えに代償も計り知れない。

 が、女神にとってはもはや些細な問題ですらない。


 全ては目的成就のため。下請け連中の命をいくらすり潰そうが彼女にとっては無問題。

 適当に暴れさせて、死んだら魂ごと信仰を回収すればいい。


 そうすれば、より極上の信仰が手に入る。

 女神という存在を崇めさせ、ついでにそのバカな魔族を使って寿命を前借りさせたパワーで敵を殺す。


 我ながら完璧だと心中で悦に浸った。


「さぁいきなさい、まずはあそこに見える氷の巨人を破壊するのはどうかしら。そして上陸してきた敵軍に神の鉄槌を下すのよ」


 玉座の間から飛び出すミリアとジェラルド。

 2人は気づかない、己の寿命が残り3時間を切っていることに。

 女神アルナは、ただ笑みを浮かべていた。


「まったくもって素晴らしいシナリオだわ、ラインメタルの奴や王国軍というイレギュラーはあったけど、ここから連中の逆転なんて絶対にありえない」


 彼女は確信めいたものを感じながら、ジェラルドとミリアの戦いを見物することにした。


 上空から接近する存在に気づかずに。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ