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第30話 休日ブレイカー

 

「な、なんで君がここに......?」


 オオミナト ミサキ、確か前に迷子だった極東出身の子だ。

 路頭に迷っていたところを拾い、近場の冒険者ギルドを教えた記憶がある。


「あー驚かせちゃってすみません、今日は2人にあの時のお礼がしたくてお邪魔したんですよ。無事冒険者としてスタートできたので」

「オオミナトさん、君ホントに冒険者になったのか」

「おかげさまで、今は【冒険者ギルド・フェニクシア】で魔導士やってます!」


 気のせいか、さらに口調が軽くなっている。

 しかし【フェニクシア】だと? オールドブレイズに並ぶトップギルドじゃないか。

 まさかそんな才覚があったとは......。


 弾むように元気なオオミナトの後ろ、廊下よりルミナス広報官が顔を覗かせてくる。

 なるほど彼女がここまで案内したわけか。


「あれ、セリカ・スチュアート1等騎士はまだ着替えてなかったのですね。もう昼前ですよ」

「当たり前ッスよ休暇中なんですから! てかなんでいきなり入れちゃってるんですか!?」

「あっ、マズかったです?」

「マズいッスよ!! ここ関係者用のリビングですよルミナスさん! わたしに至っては部屋着ですからぁ!」


 ルミナス広報官......マジメに見えて案外鈍いというか、こういうところちょっと特殊だな。


「まぁまぁ別に構いませんよセリカさん、わたしだってこんな格好ですし」


 相変わらずオオミナトが着ているのは、体操服という妙な素材の服だ。

 黒髪を振りながらクルリと回る彼女を見て、話題に敏感なセリカが「そういえば!」と叫ぶ。


「あー! 最近話題の"黒髪の魔女"って、もしかしてオオミナトさんのことでし――――ムグッ!?」


 言いかけたセリカを、再びクッションが直撃した。


「ストップストップストップ!! 最近確かにその変な名前で呼ばれること多いけどホント待って! ラノベの主人公っぽくてカッコいいんだけどなんか中二病っぽいし、何よりわたしこんな格好だからぁ!」


 中二病だのラノベだの、オオミナトからは相変わらず謎単語が飛び出る。

 まぁ言いたいことはわかるが。


「つまり恥ずかしいと?」

「そうです恥ずかしいんですよ! せっかく夢のチート冒険者ライフができると思ったらとんだ羞恥プレイ! 神様ったら残酷すぎますよ!」

「だったら着替えれば良いだろう? 服くらいいくらでも売ってるじゃないか」

「寝間着とかは買いましたけど、外出る時はこれじゃないとダメなんですよぉ」


 弱ったように言うオオミナト。


「なぜそれじゃなきゃダメなんだ......?」

「魔法とか使う条件が、どうもこの服を着てなきゃダメみたいで.....。脱いだ途端クソザコ一般人です」

「ほぉ......どれどれ」


 俺だってこう見えて魔導士、魔力の流れを見るくらいなら容易だ。


「あぁ、確かにその服は魔力で満ち溢れている。まるで服自体が魔導具になってるようだ......」


 見てみれば、魔導具というかもはや神器並みの魔力量。

 素材だけじゃなく、着た者に魔導士としての才を与えてしまう服とは......。


「ちなみに得意な属性魔法ってあるんスか?」

「もちろんありますよ、例えばホラ!」


 瞬間、窓も開けていないのに部屋へ風が吹き荒れ、セリカのクッションが宙へ浮いた。


「わたしの得意魔法は『風属性』、その気になれば台風みたいな風だって起こせます」


 黒髪をなびかせながら、オオミナトはゆっくり魔法を弱める。

 俺は魔力が無尽蔵の代わりにこういった属性魔法が使えないので、羨ましい限りだ。


「なるほど、大したもんだな」

「これもエルドさんとセリカさんのおかげです! ホントにありがとうございます!」

「で、お礼ともう1つ。まだなにかあるんだろう?」

「おや......、バレていましたか」


 お礼だけならば事前にアポを取れば良い、だが彼女は今日突然やってきた。

 別の用事――――それもかなり急な物の可能性が高かった。


「言っちゃっても......良いんですかね?」

「もちろんだ。また迷子になったわけじゃないんだろう? 言うだけ言ってみてくれ」


 まぁトロイメライ騒乱も切り抜けたんだ、大抵のことならなんとかなるだろう。

 俺は余裕を見せながら、コーヒーをカップに注いだ。


「では改めて、エルドさん――――――今からわたしと付き合ってくれませんか?」


 俺は盛大にコーヒーを吹き出していた。



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