第299話 レーヴァテイン大隊展開
街へ乗り上げた巡洋戦艦から、次々にレーヴァテイン大隊が飛び降りた。
各小隊ごとに周囲を警戒し、逃げ惑う魔族の中に敵がいないかを確認する。
「我々はこのダイヤモンドを死守する! レーヴァテイン大隊は魔都の自走システムを破壊してくれ!!」
見張り台から身を乗り出した艦長が、俺たち向かって叫んだ。
「俺の艦をこんな使い方したんだ、必ず全てを終わらせてくれよ!!」
「了解です艦長! ここまでの協力に感謝致します!」
ヘッケラー大尉が返事すると同時、俺は目の前に立つ氷の巨人を見上げた。
「サンキューなアルミナ、おかげでうまく乗り上げられたよ」
「礼はいい、わたしはわたしの任務をやっただけ。エルミナを先行させたからうまく合流して」
「おう! お前も気をつけろよ」
俺の横にいたセリカも、声を張る。
「アルミナさんも後で合流しましょうねー!」
「うん、わかった」
氷の巨人は、俺たちが通りやすいように横へ逸れた。
「第1中隊は全力で前進! 第6〜8小隊は援護、第9および第10小隊は橋頭堡の維持に努めよ!!」
「「「「「うっっす!!!!」」」」」
「エルドくんとセリカくんはポイントマンとして先行、オオミナトくんは好きに動け!!」
ヘッケラー大尉の指示に、オオミナトは目を輝かせた。
「良いんですか!? ホントに好きにやっちゃいますよ!」
「あっ、まぁ好きにと言っても限度は......」
「要するに、わたしが女神さんを倒してしまってもいいということですよね!?」
「は? いやちょっ!」
俺が静止しようとするが、暴風が吹き荒れた。
「風属性飛行エンチャント、『アンリミテッド・ストラトス』!!」
地を離れたオオミナトは、風の力で魔王城目掛けて一直線に飛んでいった。
「おい! せめて部隊の援護を――――」
「大丈夫ですよエルドさん! わたしが女神さんをボコボコにしてやるんで!」
そう言って、彼女は一気に魔王城まで飛翔していってしまった。
「あのバカ......敵の実力が未知数だってのに」
俺が呆れていると、アサルトライフルを抱えたヘッケラー大尉が隣にくる。
「まぁ、あっちでは少佐が既に戦ってるし大丈夫とは思うんだが......」
「それにしても、えらく派手にやりあっているようです。誰と戦ってるんでしょうか」
魔王城の方からは、常に凄まじい爆発音が聞こえてくる。
激しい戦いに、魔都全体が震えているようだ。
「おそらく魔王ペンデュラムだろう、さすがに魔王軍のトップだ。少佐といえど少し手間取るかもしれん」
「ですね、我々もオオミナトを追いかけましょう」
俺が魔王城の方を向くと、横からセリカが声を掛けてくる。
「エルドさん、はいこれ」
「ん? おっと!」
渡されたのは、無骨な木と鉄でできた武器。
木目の付いたグリップ兼ストックに、ポンプアクション特有のフォアエンドを備えた銃。
「市街地戦用のトレンチガンです、エルドさんこれが一番好きじゃないッスか」
「あぁ、助かる」
俺はトリガー前にあるフォアエンドを少し引き、既に薬室へ弾が入っているか確認する。
安全装置は既に外れており、弾も入っているようだったので引いたフォアエンドを前に戻す。
次にショットシェルがもう入っているか、それが何発装填されているか確認するためにチューブ弾倉へ指を入れた。
バネのテンションからして4発は入っているようだ。
「よし、サンキューセリカ。行くぞ」
「了解ッス!!」
レーヴァテイン大隊を引き連れて、俺たちは魔王城目指し前進を開始した。
――――――
進撃するレーヴァテイン大隊を見たアルミナは、さてこれからどうしようかと思考する。
やはり投げ飛ばしたエルミナを追いかけるのが最善だとは思うので、自分も向かおうとした。
「ッ!?」
直後、ギガントアイスゴーレムの右腕で爆発が起きた。
纏っていた氷が、バラバラと砕けて破片となり落ちていく。
「なっ......!」
突然の攻撃に驚いたアルミナは、屋根の上に1人の魔族を見た。
人間でいうと三十路くらいの女。
その顔に、アルミナは酷く見覚えがあった。
「ミリア第4級将軍!?」
「そうよ、久しぶりね......裏切り者の最高幹部さん」
ありえない、たかが7階級将軍の力で自分がダメージを受けるなんて。
疑心に苛まれたアルミナは、しかし視界を得ているギガントアイスゴーレムの顔が凄まじい力で蹴られることで、衝撃に襲われる。
「ぐうぅっ!?」
操縦を立て直し、なんとか転倒は防ぐ。
何が起きていると疑問符を浮かべるが、答えは目の前にあった。
屋根上に着地したのは、自分もよく知る水竜軍団を束ねていた男。
「ジェラルド第3級将軍......!」
「アルミナ様、我らはどうしても女神を守らなければなりません。頂いたこの力のためにも、もう後には引けないのです......!」
「力......?」
が、答えはすぐにわかった。
「あぁ......、そういうことね。ふざけた女神の恩寵に手を出したの」
2人の瞳は"金色"に染まっていた。
それは、ラインメタル少佐や亜人勇者が持っていたものと同一。
この世で最強の力――――
「全く......」
アルミナは、心底哀れんだ目で2人の将軍を見た。