第298話 ネロスフィア強制上陸
「エーテルスフィア不発! 魔法陣がバラけていきます!」
巡洋戦艦の見張員が叫ぶ。
見上げれば、さきほどまで燦然と輝いていたエーテルスフィアの魔法陣が、バラバラに展開されていた。
あれではもう、先程のような対艦巡航砲は撃てないだろう。
「さっすがですよお二人共!! お見事! ブラボー! マーヴェラス!!」
艦橋から飛び降りてきたオオミナトが、俺たちへ労いの言葉を掛けた。
彼女は彼女で、砕けたブリッジの窓ガラスから水兵たちを風で守っていた。
「よくわからんが第2射はこなさそうだ、こっからはお前の仕事だぞ。オオミナト」
「はい! まっかせてください、このわたしの活躍をもって女神さんに異世界の主人公は誰かわからせてやります!」
自信満々のオオミナト。
そう、ここから始まる作戦はかなりの大博打。
ラインメタル少佐が考案した、ネロスフィア強制上陸作戦だ。
「機関長! 機関いっぱい大丈夫か!?」
艦長が機関室へ最終確認を行う。
「こちら機関室、機関いっぱい問題ありません! いつでも全力発揮可能です」
「よーし聞いたな! 航海長、機関いっぱい最大戦速! 目標ネロスフィア! 突っ込め!」
ダイヤモンドが一気に加速した。
巡洋戦艦とは、普通の戦艦と違い装甲を薄くする代わりに、速力を増やした快速艦だ。
このダイヤモンドという艦は、最大速力にして30ノットを誇る。
白波を立て、ダイヤモンドはネロスフィア目掛けて突っ込んでいく。
「ッ!!」
このまま何事もなく接近できるなんて甘い話はなく、エーテルスフィアから再び攻撃が放たれた。
さっきまでとは違い、全方位へ無差別にレーザーや魔導弾をばら撒いている。
おそらく、なんらかの理由で制御を失っているのだろう。
その内の1発が、こちら目掛けて飛んできた。
「さっせるかぁッ!!」
エンピをフルスイングしたセリカが、レーザーを弾き飛ばした。
「エルドさん! 障壁を!」
「了解!!」
俺はすぐさま防御魔法をダイヤモンド全体に施した。
こちらを狙ってないとはいえ、とにかく全方位にバカみたいな数を撃っているので突出してると障壁なしじゃタダでは済まない!
――――ドドォンッ――――!!!
距離を取っていた友軍艦隊が、砲撃をエーテルスフィア目掛けて放つ。
「いいッスねぇ! このまま行っちゃいましょう!」
興奮気味のセリカが、拳を前に突き出す。
「だーっ!! もう知らねえからなぁ!!」
目の前に着弾したレーザーが、巨大な水柱を上げる。
巡洋戦艦は速力にものを言わせて、水の壁をぶち破った。
「ひゃっほーう! いけいけー!」
再び後方で砲撃音。
海軍は可能な限り援護するつもりのようだ。
『高め4!』
『高め4』
振り返れば、仰角を調整した主砲は寸分違わずエーテルスフィアへ命中していた。
相変わらず凄い練度だ。
「ネロスフィアまで、距離600!!」
超巨大な自走都市が、すぐそこまで迫る。
見れば、氷でできた巨人が市街地にそびえていた。
なるほど、アルミナがロンドニアで見せた技を使っているのか。
さて......うまくいくか!
「ソナー! 見張員は緊急待避!!」
「艦内防水扉! 閉鎖完了っ!!」
「全員掴まれっ!!」
レーザーの着弾でできた水柱を再び突っ切ると、ダイヤモンドは機関がぶっ壊れん勢いで突き進んだ。
「今だっ! オオミナト!!」
叫んだ俺は、障壁を解いてセリカを守る。
「オッケー! エルドさん!!」
ネロスフィアまでの距離、残り200!
オオミナトの髪と瞳が、銀色に染まった。
『風神竜の衣』を発動したのだ。
「風属性飛行エンチャント!『アンリミテッド・ストラトス』!!」
ドラゴン戦で見せた、対象に飛行能力を持たせる魔法――――それをオオミナトは巡洋戦艦全体に付与した。
「っだああああああぁぁぁあああああッ!!!!!」
瞬間......風を纏った巡洋戦艦ダイヤモンドが、宙に浮いた。
巨大な艦体が水面を離れ、人類史上初の戦艦による"飛行"を達成したのだ。
「ドンピシャだぁッ!!!!」
ネロスフィア外縁部に張り巡らされた十数メートルの障壁を飛び越え、市街地へ豪快に着陸。
家々を押しつぶし、勢いそのままにランディングした。
「掴まれっ!!」
激しい揺れの中で、全員が必死にしがみつく。
そして、俺は叫んだ。
「アルミナぁッ!!」
進路上にいた、アルミナの操縦するギガントアイスゴーレムが、真正面から巡洋戦艦を受け止めた。
数十メートル押されるが、ダイヤモンドは勢いを殺して市街地で静かに佇んだ。
「ネロスフィア上陸成功!! レーヴァテイン大隊、展開せよっ!! 諸君らウォーモンガーを阻止できなかったこと、女神アルナに後悔させてやれっ!!」
艦に乗り込んでいた完全武装のレーヴァテイン大隊200名余りが一斉に飛び降り、魔都の地面を踏んだ。
作戦第2段階――――『ランサーユニット』上陸成功。