第297話 ギガントアイスゴーレム
それは、エーテルスフィアが魔力砲をエルドたちへ放った直後だった。
「くそっ! このままじゃエルドや海軍がもたない!!」
エーテルスフィアの弱体化、ないし無力化を目的としている彼女たちにとって、もはやタイムリミットはゼロだった。
ホムンクルスの大群や、魔導ガトリングガンで武装したオルフォート将軍に時間を取られ過ぎたのだ。
「いっそここから直接狙うしか......!!」
必殺の"滅軍戦技"ならエーテルスフィアを破壊できるかもしれない。
右手に魔力を集めようとするが、それは姉によって静止される。
「たぶん無駄、エーテルスフィアはクリスタル自身が持つ魔甲障壁によって守られている。いくら滅軍戦技でも貫通はできない」
「じゃあ......! 合体魔法なら!? あの勇者に傷を負わせたわたしたちの必殺技ならきっと――――」
「やめた方がいい、障壁を貫ける確率はごく僅かしかない。それにこんなところで使っちゃったら魔力切れで女神たちと戦えなくなる」
歯ぎしりするエルミナ。
「じゃあ......どうしろって言うのよ! わたしたちが戦果を上げれなきゃ魔族を救えない!! ここでやらずしていつやるのよ!」
姉の言うことを無視して魔法を発動しようとするが、その手はアルミナによって掴まれる。
「離してっ! たとえ博打でもここで決めれなきゃ......!」
「落ち着いて! エルミナにはお願いがあるの」
「お願い......?」
「そう、エーテルスフィアの第2射を防ぐにはたぶんこの方法しかない。でもそれにはエルミナの覚悟がいる」
「いいわ! なんでもいい! あれを止められるならなんでも言うことを聞く! だから教えて!」
振り返ったエルミナは、真剣な面持ちの姉と正対した。
「わかった、じゃあエルミナ......たぶん怖いけど頑張って」
瞬間、アルミナを巨大な氷が包んだ。
慌てて離れると、氷塊はドンドン大きく膨れ上がり――――やがて人型を形成した。
巨大なそれは魔都を見下ろすほどの大きさを持ち、一言で言えば氷の巨人だった。
見覚えのある巨体は、いつかの記憶を蘇らせる。
「『氷装ギガント・アイスゴーレム』!」
開戦初期――――ロンドニア戦の終盤にて、アルミナが王国軍相手に発動した氷属性魔法だった。
前回こそ駆けつけた戦車部隊によって破壊されてしまったが、パワーアップした彼女によって強度はさらに上がっている。
ここに来て、この姿になる意味がエルミナにはわからなかった。
「ど、どうするのよ!?」
「――――こうする」
「えっ? うわ!?」
巨人に乗り込んだアルミナは、家一軒分はある手でエルミナを掴むと――――――
「なっ! ちょ......わあああああぁぁぁあ――――――――――――ッ!!?」
魔王城目掛けてぶん投げた。
それはもう本気で、全身全霊を込めての投擲。
巨人になったことでそのパワーは凄まじく、エルミナは砲弾のように飛んでいった。
「あとはお願い」
一言呟いたアルミナは、魔王城の外壁に着弾する妹を見届けた。
――――――
「ばっ! バカなあッ!!?」
数十秒後。
瓦礫から顔を上げたヒューモラスは、自身の顔で粉砕してしまったコントロールパネルを見て絶叫していた。
「いったたあ......なんとか間に合ったけど、お姉ちゃん無茶しすぎでしょ」
「なにをするんですかエルミナさんっ!!? 不幸です! なんという不幸でしょう! これではもうエーテルスフィアを制御できないではないですか!!」
「あっ、それコントロールパネルだったんだ。じゃあバッチリじゃん」
「バッチリなどではありませんっ! いきなり飛び込んできて、この魔都へ外敵を迎え入れるというのですか」
起き上がったエルミナは、幼げのある顔に笑みを浮かべた。
「うっさい女神の傀儡め、あんたらのせいで魔族はめちゃくちゃなのよ。同じ最高幹部のよしみでわたしがぶっ倒してあげるから感謝しなさい」
「確かに以前とは雰囲気が変わっている。ですがそれで私を倒せるとは思えませんなぁ! 姉のアルミナさん無しで大丈夫ですかぁ!?」
影のような手を無数に出すヒューモラス。
それらからは、膨大な魔力が感じられた。
「そっちこそ、女神アルナやペンデュラムに泣きつかないでよ!」
勇者に鍛えられたエルミナと、未知数の力を持つヒューモラス。
2人の拳がぶつかり合い、城中に衝撃波が広がった。