第296話 VSエーテルスフィア
「愚かなり王国軍っ! このネロスフィアの正面へ突っ込んでくるとは! 不幸です! なんという不幸な選択でしょう!!」
エーテルスフィアの管制ルームにいた最高幹部ヒューモラスは、ローブから手を出して叫んでいた。
一時はV−1と勇者の直撃を許してしまったが、水平線より現れた王国海軍の大艦隊を見て高笑いを上げる。
「偉大なる主の邪魔立てを企てんとする者共よ、己が身の矮小さを思い知るがよろしい!!!」
コントロールパネルを操作し、エーテルスフィアを空対艦モードへ移行。
大量の魔導弾を敵海軍へばら撒いた。
「おや?」
ヒューモラスは目を丸くする。
ほとんどの艦が回避運動をしているが、先頭の巡洋戦艦だけが突っ込んでくる。
しかも、エーテルスフィアの弾幕を艦全体に施した防御魔法で防いでいた。
「あの巨大な艦全体にエンチャントを掛けてしまうとは......! やはり"蒼玉"が乗っている!? だがしかーし!!」
ヒューモラスはパネルを操作。
無作為に張っていた弾幕を、消去した。
「最大射程30キロ! あなたたちの誇る核兵器とやらに匹敵するエーテルスフィアの威力......! その身をもって思い知りなさい!!」
振り上げた右手を、思い切り下ろす。
「女神アルナに栄光を!!!」
パネルが潰されんばかりに叩かれた。
――――――
「こちら艦橋! エーテルスフィアがエネルギー集中モードに移行。魔法陣を1つに収束させている!!」
「ッ!!」
そう簡単には通してもらえなさそうだ.....!!
俺は艦全体に張り巡らせていた障壁を、艦首正面に集中させた。
そうでもしなければ、これから来る攻撃を防ぎ切れないからだ。
「超高出力魔導反応!! 総員衝撃に備えッ!!!」
赤く瞬いたエーテルスフィアから、計り知れない威力の魔力砲――――対艦巡航砲が発射された。
「主砲3型弾!! 迎撃用意――――撃てッ!!」
僚艦が次々と主砲を斉射。
魔力砲の正面に対空砲弾が炸裂するが、エーテルスフィアの放ったそれはいともたやすく主砲の壁を突破した。
ありったけの機銃弾や高射砲弾も、全く意味をなさない。
超低空――――水面を割りながら突っ込んでくる。
「ずあぁっ!!!!」
艦首で魔法を発動した俺は、エーテルスフィアの魔力砲を正面から受け止めた。
やべぇ......っ!! 腕が千切れる!!
凄まじい威力に、俺は主砲の近くまで一気に押し込まれた。
衝撃波が幾重にも広がり、艦橋のガラスが一斉に砕け散る。
巨大な艦が大きく揺れ、最大速力は低下した。
「ぬううあああああああぁぁぁああ――――――――――――――――ッッ!!!!」
通すもんか......! やられてたまるか!!
弾け飛びそうな両腕から、悲鳴が上がる。
足でブレーキを掛けている甲板は、えぐれていた。
せめて、横に弾く隙があれば......!!
「だああああぁぁあああああッ!!!!」
――――ガギィンッ――――!!!
「っ!?」
下がっていたセリカが、真横から魔力砲をエンピで殴りつけていた。
「エルドさんッ!!」
さすが寝食共にした親友! 俺の望みを一瞬で理解したらしい。
「合わせろセリカっ!!!」
「はいッス!!!」
障壁の向きを斜めに逸らす。
受け流された魔力砲は、艦を外れて遥か後方の水平線上に消え――――――
「うおおッ!!?」
とんでもない大爆発を起こした。
きのこ雲のような水の爆発が、空高くへと昇ったのだ。
あんなのが直撃していれば、艦隊自体がやられていただろう。
「魔力砲回避成功! 機関、舵、スクリュー異常なし!! やったぜ!」
「電探、ソナー、共に無事です!!」
「全主砲異常なし、全力発揮可能!! よくやったレーヴァテイン!!」
「はぁっ! はぁっ! なんとか......いなし切ったか」
「えぇ、ですが......」
エーテルスフィアが、再び赤く輝いた。
「エーテルスフィア! 第2射来ます!!」
「ッ......!!」
――――――
「なんということだ......! まさかエーテルスフィアの魔力砲を弾くとは。あっぱれ、ビューティホー、それともアンビリバボーでしょうか!? いずれにせよ驚嘆っ!!」
再びパネルを操作するヒューモラス。
「ですが、儚き抵抗もここまでです。この第2射をもってあなたたちの幸運は潰えるのです!!」
いざ、発射ボタンを押そうと腕を振り下ろす――――
「させるか――――――――ッ!!!!!」
「なっ!?」
壁が崩落する、白が基調のこの部屋に大量の瓦礫が降った。
そして、空いた穴から1人の吸血鬼が突っ込んできたのだ。
「ブゲブッ!?」
桃色の髪をなびかせた彼女――――吸血鬼エルミナは、ヒューモラスの顔面をそのままコントロールパネルへ叩きつけた。
マナクリスタルで作られたそれは、見事に砕けた。