第293話 勇者ジーク・ラインメタルVS魔王ペンデュラム
女神コロナの名前、今のご時世だとヤバくね? という心配をいくつか頂いたので、現在手作業で古い話数から順に修整中です。
今後の名称は「女神コロナ」→「女神アルナ」となります。
どうも慣れませんが、中身がマッチポンプクズなことは変わりませんので引き続きよろしくお願いします
「魔都の自走システムを起動したか、ペンデュラムくん。目的地はどこだい? まさか王都まで突っ切るつもりかな?」
超巨大な建造物である魔王城の一角で、勇者ジーク・ラインメタルと魔王ペンデュラムは正対していた。
第2城壁に隣接した石畳の上で、ペンデュラムは鎧から魔力を溢れさせた。
「その通りだ勇者よ、このネロスフィアでもって貴様の国を完膚なきまでに踏み潰す。それが主のお望みであり、我らが信念なのだ」
「せっかく復活させた魔都を愚かな女神に乗っ取られ、天使の言いなりになるしかない惨めな君に、信念なんてあるのかはてさて気になるところだねぇ」
「貴様に知る余地などあるまい、我々魔王軍は主と一蓮托生。儀式の邪魔立ては決してさせん!」
ドス黒いオーラを放つペンデュラムに、ラインメタル少佐は笑顔を浮かべた。
「守るものを得た者は強いというが......、良いだろう。僕の前では無意味な戯言だと教えてやろう」
「戯言だと......!」
「あぁ戯言さ、君程度では女神に挑む前のウォーミングアップにすらならん」
「ほざけ勇者が......! 数年前は俺とほぼ互角だった貴様に、圧倒されるわけがなかろう!!」
地を蹴った魔王ペンデュラムは、両手で持った魔剣をラインメタル少佐へ振り下ろした。
衝撃波が広がり、城の一部が崩れ落ちる。
「パワーはそのままのようだね、確かに将軍クラスとは一線を画している」
魔剣は、ラインメタル少佐によって右手1本で防がれていた。
凄まじい魔力のぶつかり合いが、城全体を大きく揺らす。
「どうした? 僕は素手だぞ?」
「おのれええぇッ!!」
一度下がったペンデュラムは、右手に真っ黒な炎を宿らせた。
「黒炎龍よ! 神の宿敵たる勇者を跡形もなく滅するのだ!」
放たれたそれは、最上位クラスの炎属性魔法。
魔法の極地とも言える攻撃は、魔王ペンデュラムの誇る最高威力の得意技だった。
周囲を灰に変えながら突っ込んでくる炎を、しかしラインメタル少佐は避けない。
「懐かしい技だ、君の情熱を具現化したようだよ」
眼前の勇者は、そんな触れれば消滅してしまうような攻撃を、なんと蹴り飛ばしてしまった。
魔王は防御系魔法の類を疑ったが、すぐに訂正させられる。
弾け飛んだ黒炎が、広範囲の地面や壁を容赦なく溶かす中――――
「あっつつつ!! 火傷してしまったじゃないか。容赦ないねーペンデュラムくんは」
「なっ......!?」
火傷......、火傷だと!?
喰らえば全てを灰燼に帰す奥儀で、火傷程度だと!?
前大戦では、勇者パーティーにかなりのダメージを与えていたはずだ。
まさかと、魔王はもっとも行き着きたくない可能性を疑った。
この数年で、自身のレベルである"200"を大きく上回られたのではないか......!?
「では今度はこっちからやらせてもらおうかあぁぁい!? ペンデュラムくぅんッ!!」
真っ黒な殺気が溢れ出る。
心底嬉しそうな笑顔は、ペンデュラムをもってしても狂気を感じざるをえない。
人間の短距離走と言うにはあまりに速すぎる速度で、ラインメタル少佐が突っ走ってきたのだ。
「ごふっ!?」
一瞬だった。
距離を置いていたはずなのに、魔王ペンデュラムは鎧がひしゃげるほどのパワーで蹴り飛ばされた。
まるで風船のように宙を飛ぶ。
「ぐお......ッ! があぁ!!」
尖塔を2つほどブチ抜いたペンデュラムは、剣を突き立てることでなんとかブレーキを掛ける。
久しく味わったのは、強烈な痛み。
魔王軍トップの自分が、たった1発でダメージを受けてしまった事実。
「やはりこの程度か」
見上げれば、青空を背にラインメタル少佐が尖塔から見下ろしていた。
「くっ!!」
すかさず魔剣を構えるが、ペンデュラムは押し寄せてきた恐怖に身震いした。
気づいてしまったのだ、あの男の瞳がまだ"金色"ではないことに。
「どうしたペンデュラムくん、僕はまだ全然本気じゃないぞ?」
悠々と見下ろす少佐が、両こぶしを握った。
「はぁッ!!」
ボウっと金色の魔力が吹き出した。
爆発のように広がったそれは、周囲に暴風を吹き荒れさせた。
「ッ......!!」
そして見たのだ。
金色に染まった勇者の目を......。圧倒的な力の源を。
少佐は、今やっと勇者モードを発動させたのだ。
「さて、ここから力を入れようか。しっかりついてきたまえよ〜?」
もはや、"絶望"と形容するしかなかった。




