第292話 進撃する吸血鬼
「勇者のやつ、まさかミサイルと一緒に突っ込んだの!?」
屋根上でホムンクルスと戦っていたエルミナは、魔王城から立ち昇る煙を見ながら叫んだ。
エーテルスフィアへ近づくために奮戦していた彼女たちの目の前で、突如としてV−1が突入してきた。
弾幕をかいくぐり、障壁を突破したそれは玉座の間へクリーンヒット。
そして見たのだ......弾着寸前に分離した勇者が爆炎の中へ入っていくのを。
「イカレてる......、けれど一番効果的」
氷槍で敵を貫きながら、アルミナは呆れていた。
「限度があるでしょ限度が。ミクラのヤツは知ってたのかしら?」
魔王城を見つめていたエルミナの直上から、ホムンクルスが迫る。
亜人勇者と同じ外見をしたそれは、光の剣を振り下ろしながら――――
――――バチュン――――!
肉塊へと変わった。
遅れて響く銃声、しっかりと行き届いたカバーに関心しながら彼女は振り向く。
「......どっちでもよさそうね」
塔の上では、相変わらず巨大な鉄の塊が突き出ていた。
「ふぅ〜......!」
ミクラは《PTRD1941》の下がりきったボルトを、コッキングハンドルを操作することで前へ押す。
装填された14.5ミリ弾が、再び発砲炎と共に撃ち出された。
凄まじい反動でボルトが下がり、巨大な空薬莢が弾き飛ばされる。
マッハ3という呆れた速度で飛翔した弾は、衝撃波を幾重にも纏いながら550メートル離れたホムンクルスへ吸い込まれた。
「がっ......!!?」
対戦車ライフルとは、本来戦車の装甲をブチ抜く用途で作られている。
いくらホムンクルスがタフネスを誇っても、胴体を真っ二つにされれば意味をなさない。
「相変わらずイカれた男だ、ミサイルを乗り物にするとはな」
防水袋から次弾を取り出そうとしたミクラは、しかし奇妙なものを目にする。
「うん?」
800メートルほど先だろうか......。
ミクラの目で見えるギリギリの場所に、ホムンクルスが5体くらい集まったのだ。
直後、進撃するエルミナたちの前に巨大な魔甲障壁が現れた。
幾何学模様のそれは、彼女たちの進軍を阻んでしまう。
「なるほど、あれはつまり防御陣形か」
魔法を発動しているホムンクルス目掛け、《PTRD1941》を放つ。
だが、放物線を描いて飛翔した弾丸は火花を立てて弾かれてしまった。
即席の魔法とは思えない強度に、ミクラはヒュ〜っと口笛を鳴らした。
もっと距離を詰めようかとも考えたが、せっかちな彼女たちがこっちを向いているので別の案を取る。
「こいつを使うか」
ミクラは別で持っていた10発入りの袋を取り出した。
出てきた弾は同じ14.5ミリ弾だが、油にまみれた弾頭に小さく魔法陣が描かれている。
慣れた動作で下から薬室へ挿入すると、ボルトを前に押してロック。
サイトを覗いた。
「ふぅ〜......!」
引き金をひくと、轟音と共に弾が撃ち出された。
同じように障壁へ着弾したそれは、さっきと同じく弾かれると思われたが......。
――――ギャリリリリッ――――!!!
弾は回転を止めず、ゆっくりとめり込んで障壁にヒビを入れた。
「貫通エンチャント付きの弾丸だ、砕けろ」
障壁を真ん中から貫通した。
弾はすぐ後ろのホムンクルスへ命中すると、貫いて家屋へ着弾。
魔甲障壁はバラバラになって消えた。
「さて、そろそろ場所を移動するか」
重たい銃を担ぎ、降りようとしたミクラを突如揺れが襲った。
「おっとっと!?」
地震かと思ったが、すぐさま感覚が否定する。
「まさか......」
同様の揺れは、エルミナとアルミナも感じていた。
「お姉ちゃん!」
「えぇ......魔王のやつ、ネロスフィアの自走システムを起動した」
「自走たって、どこに!?」
「わからない、でも時間がない」
急ごうとしたアルミナだが、そんな彼女の前に転移魔法陣が現れた。
慌ててブレーキを掛け、現れた者を警戒する。
「すわ! ここから先は通行止めだ、裏切り者の吸血鬼よ!!」
出てきたのはたった1人の男。
比較的若い印象を持つ魔族だったが、問題は手に持っているものだった。
「......"魔導ガトリングガン"!?」
男は背負った魔力パックから、チューブで繋がった6連装の回転式銃身を向けていた。
それは、高威力の魔導弾を秒間75発で発射する勇者の魂を使って作られた試作兵器。
「その通りだ吸血鬼!! 俺は次期第7級将軍オルフォート! ここで貴様らを殺してその立場――――盤石なものにしてくれよう!!」
砲身が回転し、超高速連射のまばゆい光がアルミナを照らした。
とうとうっ! 本作が10000ptを突破しました。
凄いですね、ミリタリー×ファンタジーという異色ジャンルでもここまで来れるものなんですね。
ただただ感謝しかありません。