第291話 7階級将軍VSジーク・ラインメタル
「勇者......ジーク・ラインメタル!!」
ペンデュラムの握る魔剣へ、力がこもった。
眼前の男こそ、前大戦でたった1人魔王軍を撃退した伝説の英雄。
人類史上最強の男にして、神への反逆者だった。
「やぁやぁ久しぶりだねペンデュラムくん、第2次魔王戦争じゃ初めてじゃないか? そっちにはマヌケな女神とバカ妹もいらっしゃる」
「相変わらず減らず口をたたく男だ......、貴様、よくもスプーキー会議首班を殺してくれたな」
「ん?」
ラインメタル少佐は、思い出したように足元を見た。
そこには、さっき撃ち抜いたスプーキー会議首班が倒れている。
ジンワリと血溜まりができており、即死しているようだった。
「あぁこれか、あまりにも無防備だったんでつい撃ってしまったよ。もしかして皆で集まってお楽しみの最中だったかい? そいつはすまなかったねペンデュラムくん、まぁ......」
数歩前へ出た少佐は恐ろしく不気味な顔で笑った。
「今から全員殺すんだけどね」
勇者の言葉に、ミリア第4級将軍が杖を構えた。
「不届き者めっ!! 主と魔王様を侮辱するか!! 万死に値するぞ!!」
「ミリアか、僕に杖を砕かれて逃げた君に、なにかできるとは思えんがな」
「黙れっ!! 火属性上級魔法――――」
足元に魔法陣を広げたミリアは、魔力を高めた。
向けた杖先に、火球が出来上がった。
「『グランド・ファイア』!!」
勢いよく放たれた豪炎は、ラインメタル少佐に直撃して爆散した。
玉座の間を熱風が吹き荒れ、飛び散った炎が床を燻ぶらせる。
「やったか!?」
確かな手応えを感じたミリアは、思わず叫ぶ。
だが、その問いは炎の中から返された。
「いけないよミリアくん、オオミナトくん風に言えば"やったか"は回復魔法だ」
「ッ!?」
炎の中から、表情一つ変えていない勇者が出てくる。
あの魔法はミリアが誇る最大火力の魔法であり、対勇者用に鍛えたとっておきの一撃だった。
しかし、直撃したはずのラインメタル少佐は火傷さえ負っていない。
「化物めっ!」
「下がれミリア将軍! 俺が詰める!!」
武器を手にしたジェラルド第3級将軍と、クラーク第5級将軍が突っ込む。
左右から勇者を挟撃するが......。
「待てっ!! 行くな!!」
魔王が手を前に出して静止する。
本能だった、ヤツと交戦したことのある彼だからこそおぞましい殺気を感じ取れたのだ。
それでも、将軍2人は構わず剣を振った。
そこには、降臨した主と天使を守るという使命を帯びた男たちの姿があった。
「死ねっ! 勇者ァッ!!」
「うおおおおおぉっ!!!」
両将軍が剣を叩き込む。
確実に首を持っていったと思われた斬撃は......。
「ふっはぁ!!」
素の両腕によって防がれる。
それはなんの技でも魔法でもない、ただ首の横へ出した腕だけで止めて見せたのだ。
「ぐおおっ......!!」
「な......にっ!!?」
次元が違う。
ジェラルドがそう理解した時、反対側にいたクラーク将軍の首が飛んだ。
「あれ......?」
一瞬だった。
防御の姿勢から、凄まじい速度の上段回し蹴りを眼前の勇者が繰り出したのだ。
刃物よりも鋭い蹴りに、クラーク将軍の首は宙を舞う。
脳みそを失った体が、力なく倒れた。
「なっ......!!」
殺される。
あまりにも無慈悲な力、アッサリ刈り取られる命を見てジェラルドは硬直した。
「次はぁ......! 君か〜い!!?」
向けられる眼光は悪魔かヘビのようなそれ、自分がカエル以下の存在だと知るのに時間は掛からなかった。
「あぁ......!!」
ジェラルドの意識はそこで途切れる。
恐怖のあまり失神したのだ。
「さようなら」
少佐によって振り下ろされた手刀は、ジェラルド将軍の首へ一直線に向かい――――
――――ギィンッ――――!!!
金属音と共に防がれた。
見れば、攻撃を防いでいたのは1本の魔剣。
「これ以上好きにはさせんぞ!! 勇者っ!!」
「はっはぁ! 君が相手してくれるのかいペンデュラムくうぅぅぅぅぅうぅぅぅぅんッ!!!?」
「このイカレ勇者がっ......!! うおおおッ!!!!」
渾身の力を込めたペンデュラムは、ラインメタル少佐を穴の空いた壁から一気に外へ押し出した。
「舞台を変えたいか! 良いだろうペンデュラムくん! 久しぶりの再会だ、楽しもうじゃないか!!」
遠ざかる女神たちの姿を見て、少佐はボソリと呟く。
「せいぜいしっかり儀式を成功させたまえ、愚かな神よ」