第287話 ネロスフィア直撃
「まっ、こんなもんかな」
グチャグチャになった港湾施設を見ながら、エルミナは満足そうに頷いた。
周囲には気絶した作業員の魔族が散乱し、むなしく警報が鳴り響いている。
まさしく完全制圧だった。
「お疲れエルミナ、でもまだ仕事はこれからよ」
「わかってるわお姉ちゃん、準備はできてる」
振り返ったエルミナの視界には、姉のアルミナと対戦車ライフルを構えたミクラが映る。
「よし、俺は適当な高台を探す。お前らは好きに暴れろ」
「了解ミクラ! そっちも気をつけてね」
「あぁ、"アイツら"の到着までにはエーテルスフィアの能力を落としたいところだ」
ミクラと別れ、吸血鬼2人は市街地の方へ走った。
魔都の住民は突然の爆発に困惑しており、彼女たちの侵入に気づいていないようだった。
「住民はともかく、魔王や女神にはバレたでしょうね......」
「わかってるお姉ちゃん、そんなの最初から織り込み済みでしょ?」
「......そうね」
大通りに立った2人を、数人の魔族が囲んだ。
服装からして警備の者のようだった。
「君たち、あの港から出て来たようだが......ちょっと話を聞けないだろうか?」
「いいわよ、ただし――――」
エルミナがニッと笑い、周囲の家々が揺れた。
「引っ捕らえれたらねッ!!!」
莫大な魔力の爆発が、周辺の住民もろとも警備の魔族を吹っ飛ばした。
「やるわよお姉ちゃん!!!」
「えぇッ!!」
魔都ネロスフィアに、血色と水色の魔法陣が浮かぶ。
空中までせり立った光の柱から、戦闘形態へ変身したアルミナとエルミナが姿を現す。
あの決闘で、ラインメタル少佐の右腕をもっていった強力な姿だ。
◆
――――魔王城
いきなり現れた敵に、席を外そうとしていたスプーキー会議首班は釘付けにされていた。
「警報!! 敵の襲撃です!!」
「くっ! なんという巨大な魔力......、もう解析は済んだ!?」
「はいスプーキー様、パターンA――――これは......最高幹部と同一のものです!」
「なんだって!?」
スプーキー会議首班の脳裏に、裏切り者の姿が浮かび上がった。
かつて魔王軍に在籍していた、2人の最高幹部が......。
「れ、例の吸血鬼姉妹かい......!? あれって相当な化物じゃないか。どうやってネロスフィアに侵入したんだ! どうやって対処しよう!?」
「我々に聞かれましても......! 経路不明! 将軍閣下たちは魔王様に呼ばれて欠席中ですし」
「僕だって魔王様に呼ばれてるんだ!! なんか対処部隊とかないの!? 警備は!?」
外の市街地で連続して爆発が起こる。
恐らくは、警備が蹴散らされているのだろう。
「ネロスフィアを最高幹部級が襲撃するなんて、誰も予想しておりません!! ご指示を!」
「えぇ......、僕会議首班だよ? 将軍じゃないし無理だよ......。戦いとかよくわかんないし」
「そんな......!!」
部下が困窮しきったところで、部屋の影がゆっくりと起き上がった。
それはやがて人型を形成し、スキンヘッドが特徴的な男へと変わる。
「これはこれは、不幸に苛まれたような表情をしていらっしゃいますね会議首班」
「ひゅ、ヒューモラスくん!!」
彼は、今ネロスフィアで暴れている吸血鬼と同じ位――――すなわち最高幹部の称号を持つ男だった。
彼なら、きっとなんとかしてくれるだろう。
「良いところに来てくれた! あの街で暴れてる吸血鬼共になんかこう......ドカンと効く案はない!?」
「ご心配なく会議首班、既に手は打っております」
「本当か!」
「えぇ、それより魔王様をお待たせしてはいけません。玉座の間へ参りましょう――――吸血鬼共にはすぐに不幸が舞い降ります」
ヒューモラスは不敵に笑うと、スプーキー会議首班と共に部屋を出た。