第284話 セイバーユニット
「いやはや実に良い天気だ、全てを終わらせるのにふさわしいと言っていい」
東ウォストピア領内にある王国軍の演習場で、ラインメタル少佐は立っていた。
いつも通りの黒い軍服を纏い、その端正な顔を歪ませる。
「遂にこの日がきた、この世の理を滅する最大最高の好機が......! 僕はこの日のために戦ってきたのだ」
喜びに打ち震える少佐の横へ、桃色の髪の吸血鬼が並んだ。
「なに1人で感極まってるのよ、あんただけで行くんじゃないでしょ」
「これが興奮せずにいられるかいエルミナくん、今日僕はやっと勇者としての役目を果たせる。那由多の彼方から目指してきたゴールがやっと目の前にきたんだ」
「うん、わかんない。お姉ちゃんわかる?」
エルミナは、少佐を挟んで反対側に立つ水色の髪の吸血鬼へ話を振った。
「わたしたちは魔族のために戦う、ただそれだけ。勇者の歓喜に付き合う義理はない」
「相変わらず氷属性魔法のような言葉だなアルミナくん、この喜びを共有してくれても良いんじゃないかい?」
「さぁ、共有するのはカレーの味だけで十分」
「カレー好きの吸血鬼か、実にクールだ」
ラインメタル少佐は、ホルスターの拳銃を抜くとちゃんと薬室に弾が入っているかを確認する。
「ちゃんと食べ納めはしてきたかい? もう二度と帰ってこれんかもしれんのだぞ」
「大丈夫、エルドの奢りで12皿は食べてきた。あいつの財布は当面薄っぺらよ」
「ハッハッハッハッ! そりゃ見事なもんだ、さぞエルドくんも喜んだだろうよ」
「会計見て青ざめてたけどね〜」
2人の会話に、悪戯っ子のような表情でエルミナが笑った。
「そういえば第1陣はこの3人だけ?」
「いや、俺も行く」
エルミナが振り返ると、そこにはまだら模様な緑の迷彩服を着た男が立っていた。
短く切りそろえた黒髪と、引き締まった筋肉を持つ男は精強な顔つきをして後ろから歩いてきた。
「やぁミクラ1曹、遅かったじゃないか」
「なぁに、こいつの扱いを練習してただけだ。もうバッチリだよ」
見れば、ミクラの両手にはエルミナやアルミナの身長に届きそうなくらい大きい銃が握られていた。
独特な長身のライフルで、先端付近にはバイポッドが装着されている。
「連邦産の対戦車ライフル――――『PTRD1941』か、それでいいのかいミクラ?」
「あぁ、俺はこれと『P220』自動拳銃を持っていく。地球にいた頃――――この対戦車ライフルが出てくるライトノベルを読んで以来、ずっと使ってみたかったんだ」
「いい機会だ、楽しみたまえ」
アルミナ、エルミナ、ミクラ、ラインメタル少佐の4人は横に並ぶと、それぞれが決して後戻りできない1歩を踏み出した。
「さぁ諸君、戦争だ! 楽しい楽しい戦争の時間だ! ネロスフィアに巣食う宿敵を残らず葬り去ろう! そして必ず帰るぞ!!」
「「「了解!!!」」」
ネロスフィア第1突撃班――――通称『セイバーユニット』は、最後の決戦へ赴いた。