第283話 最終侵攻
核ゲー
連合国軍の大規模攻勢が開始された。
全戦線より始まったそれは、まるで津波のように魔王軍主要拠点へ殺到した。
戦力概要はミハイル連邦軍443個師団、アルト・ストラトス王国軍62個師団、スイスラスト共和国30個師団の計535個師団。
先日の核攻撃によって主力を喪失した魔王軍に、とても止められる規模ではない。
もはや補給路さえボロボロになった彼らへ、攻撃は容赦なく行われた。
――――北部第2戦区。
ここでは進撃したミハイル連邦軍と、残存する魔王軍第4軍団が交戦していた。
丘陵地帯に籠もる黒魔導士部隊へ、鉄の雨が降り注ぐ。
「ノーズ隊長! 間もなく第2防衛ラインが突破されます!! 既に指令部施設など被害甚大!」
「クソッタレ!! なんて数だ......! 応戦しつつ後退! ミリア第4級将軍の名誉にかけて守り抜くぞ!!」
彼らの前に押し寄せてきたのは、連邦軍が誇る戦車『T−34』、並びに『IS−2』重戦車だった。
数百両にも及ぶこれら戦力を前に、わずか3000人の黒魔導士は一方的に殲滅される。
「連邦軍、第3防衛ラインに到達!!」
「『25連爆裂魔法陣』起動!! ふっとばせ!!」
大量の爆発が連邦軍を襲った。
3ヶ月かけて準備した爆裂魔法が、『T−34』戦車中隊に少なくないダメージを与えたのだ。
炸裂の連鎖は、随伴する歩兵までもまとめて吹き飛ばす。
が......。
「敵軍健在!! ダメだ......数が多すぎる!」
圧倒的物量を誇るミハイル連邦軍を前に、3ヶ月の備えは無意味と化す。
「氷結魔法、並びに炸裂魔法効果なし! 勝てないっ!! 逃げろおおおっ!!」
丘陵地帯の第4軍団はまたたく間に潰走した。
――――北部第1戦区。
こちらの様相はさらに酷かった......。
連邦軍を食い止めようと集結していた魔王軍第7軍団は、空に数体のワイバーンを見る。
「敵ワイバーン、視認!! こっちへ来ます」
連邦軍大部隊を想定していたこの軍団は、まるで現れない敵軍に不信感を抱いていた。
なぜ、あんな少数のワイバーンだけなのだと。
「あれは重輸送ワイバーンだ......、おい待て! なにか落としたぞ!」
ワイバーンが落とした物体は、勢いよく降下しながら第7軍団の真上に到達。
一定高度に達した時点で、信管が作動――――パンドラの箱が再び開かれた。
「なっ――――!?」
全てが消滅した。
膨大な熱核エネルギーが、数十キロという範囲を熱波で覆い隠す。
軍団は一瞬で消滅し、後に残ったのは死の灰を降らす巨大なキノコ雲。
アルト・ストラトス王国軍による2度目の核攻撃だった。
しかも1発ではない、広大な面積を誇る第1戦区全体で"計3発"もの核爆弾が投下されたのだ。
王国軍の観測ワイバーンは、山脈を挟んで空を貫く3つのキノコ雲を同時に視認していた。
最初の核攻撃以降、魔王軍は1回の核攻撃で全滅することを恐れて戦力を分散させていたが、分散させた分だけ核が降ってくるという地獄絵図が誕生した。
――――南方海域絶対防衛線。
陸で核爆弾による飽和攻撃が続いている中、ネロスフィア海の入口たるイルフィーナ海峡では大海戦が起こっていた。
「目標! 右舷甲型水竜! 発射雷数3! 撃てっ!!」
こちらでは王国海軍第1、第2機動艦隊と魔王軍第3軍団、および第5軍団が交戦していた。
第3軍団の水竜は果敢にブレスを吐くが、長射程の王国海軍戦艦による砲撃と、駆逐艦の雷撃によって次々とミンチにされる。
今この瞬間も、また1体の大型水竜が魚雷により爆散した。
「クソッタレがああああぁぁあああああ!!!!!」
上空から機動艦隊目掛けて急降下するのは、第5軍団所属のワイバーン部隊。
彼らを迎え撃つのは、護衛の駆逐艦や巡洋艦、戦艦から大量に放たれる曳光弾だった。
機銃の凄まじい連射でワイバーンが叩き落とされ、近接信管の爆発によって編隊ごと薙ぎ払われる。
「なんだあれは!? 今までの対空砲火と違い過ぎる!!」
ワイバーン部隊は、ブレスの射程距離にさえ近づけない防空網に戦慄した。
飛んできた弾が、近くを通っただけで爆発し、破片をばら撒くのだ。
「反則だろっ!! こんなの!!」
思わず嘆きの声くらい出るもの。
それもそのはず、この対空砲火は王国海軍の新兵器――――『マジックヒューズ』と呼ばれるものを搭載した新種の砲弾だった。
主に"VT信管"と呼ばれるこれを搭載した砲弾1発1発が、近づいたワイバーンの傍で炸裂し、その破片で落とすのだ。
「うわああああぁぁあああああッ!!?」
魔王軍第5軍団は、このVT信管になすすべもなく"七面鳥撃ち"にされた。