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第281話 女同士のガチバトル

 

 オオミナトが指定した『悠久の滝』とは、一般的な縦に流れ落ちるあの滝とは少し違う。


 言ってしまえば外見は浅く幅のある川みたいで、水の上を普通に歩ける。

 つまりは、"滝"という名前をした幻想的な浅い川だ。


「さーて、じゃあ始めますか!」


 エンピを担いだセリカが、体を準備運動の要領で伸ばしながら言った。

 彼女の足元――――半長靴は川の中に浸かって濡れている。


「セリカさんとは初めて戦いますね、じゃあルール説明からしましょうか」


 対岸に立ちながら、オオミナトが黒髪を揺らす。


「死なない程度に全力で! 以上!」


 単純明快すぎませんかね......。

 いや、オオミナトの性格的に細かいレギュレーションを考えるのがきっと面倒くさかったんだろう。


「いいッスよ!! じゃあわたしも手加減なしでいきます!」

「構いません! 今日は特訓イベントをこなした主人公の覚醒回です!」


 うん、相変わらずわけがわからん。

 独特の言い回しは変わらずだ。


「それじゃあスタートの合図は俺がするぞ、よーい......」


 俺は思い切り腕を振り下ろした。


「始めッ!!」


 オオミナトの瞳が銀色に染まる。


「はああッ!!!」


 凄まじい速度でセリカへ肉薄し、風の剣を叩きつけた。

 衝撃波が周囲に飛び散った。


「だいぶスピードが上がってますね......!」


 それを、セリカは元剣士職らしくエンピで受け止めていた。

 お互いニヤリと笑うと、川を下るように並行で走り出す。


「今度はこっちから行かせてもらいます!!」


 エンピに魔力が込められ、光り輝く。


「『ソード・パニッシャー』!!!」


 ソードという名前だが、突き出されたのはエンピ。

 両腕でガードしたオオミナトが、数メートルはブレーキを掛けながら後ろに下がった。


「いったたた! やりますねセリカさん!」


 すぐに体勢を立て直し、再びエンピと風の剣が打ち合った。

 剣舞のようなそれは、川の水を激しくかき混ぜた。


 ――――ガィンッ――――!!!


 鍔迫り合いに発展。

 お互いが歯ぎしりしながら渾身の力を込めるが、どうも拮抗しているようだ。

 ここで、セリカが動く――――


「ごふっ......!?」


 彼女の右拳が、オオミナトの腹部にめり込んでいた。

 鎧なんて着てないから防御力は皆無、音的にたぶん本気で殴ったなセリカのヤツ......。


「ルール的に腹パンくらいならオッケーですよね?」


 セリカはニッコリと笑う。

 咳き込んだオオミナトも、答えるように笑い――――


「げっほッ!?」


 反撃とばかりに腹パン。

 かなりいい音が響き、苦悶の表情を浮かべたセリカが数歩下がった。


「結構筋力値も鍛えたんで、だいぶ効いたんじゃないですかセリカさん?」

「いっつ......、いいですね。これくらいやってもらわないと!!!」


 再び攻撃の応酬が始まる。

 うわ......、女同士の戦いって怖え。


 だが、近接戦ではセリカに分があるようで。


「ッ......!!」


 弾かれたオオミナトが、大きく体勢を崩した。


「貰いですッ!!!」


 その隙をセリカが逃すはずはない。

 当たれば気絶待ったなしの攻撃を繰り出すが――――


「なっ!?」


 オオミナトから莫大な風が放出された。

 その勢いは凄まじく、吹っ飛んだセリカは川の中を転がった。


「くっ......」


 びしょ濡れになりながら起き上がったセリカの前には、雰囲気を一変させたオオミナトが立っていた。


 瞳はより強く、しなやかだった黒髪は銀色に輝いていた。

 纏っている魔力も、さっきまでと比べ物にならない。


「『風神竜の衣』......か」


 オオミナトの決戦用変身だ。

 これで決めるつもりだな。


「見せてあげましょうセリカさん、修行の成果!!」


 ゴウッと風が吹き荒れた。


「『アンリミテッド・ストラトス』!!!」


 瞬間、オオミナトの体が宙を飛んだ。

 あれはいつかのドラゴン戦で、せいぜい滑空するくらいが限界だったはずの魔法......!


「なるほど......! もう風の力で空を飛ぶのも自由自在ってことか」


 これをずっと修行していたのだろう。

 空高く昇ったオオミナトは、風の剣を構えて魔力を高めた。


「吹き荒れろ、竜神の風! その力をもって敵を殲滅せん!」


 彼女の持つ風の剣が、心なしか黄金に輝いて見える。

 まさか――――


「これで終わりです!! セリカさん!!」


 高空から一気に急降下したオオミナトが、セリカ目掛けて攻撃を叩き落とした。


「滅軍戦技――――『鳳凰流星剣』!!!」


 巨大な爆発が発生した。

 俺はすかさず防御魔法を張り、飛んでくる破片を防いだ。


 川は消し飛び、巨大なクレーターが出現していた。

 その傍で倒れるセリカの姿――――


「セリカ!!」


 思わず駆け寄ろうとしたが、なんと――――――


「いっつつ......、いや〜さすがに死ぬかと思ったッスよ」


 セリカはエンピを杖にしつつも、平気そうに立ち上がった。

 どういうことだ、オオミナトが手加減していたとも思えないが......。


「流石ですね、セリカさん」


 降りてきたオオミナトが、『風神竜の衣』を解除した。

 髪と瞳が元の黒色へと戻る。


「どういうことだオオミナト?」

「攻撃が当たった瞬間、こっちの風の剣をセリカさんは滑らすように受け流したんです。だから直撃を免れた......」


 あの一瞬でそこまで......。

 やはり、ラインメタル少佐が直々にスカウトしただけはある......ということか。


「ここまでにしましょう! これじゃたぶん勝負がつきませんから」

「そうッスね、いや強くなりましたねオオミナトさん!!」


 恐ろしい女同士の戦いは、こうして幕を閉じた。


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[良い点] 円匙と互角とは魔法恐るべし
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