第277話 決着と成否
それは間違いなく魔法だった。
光に包まれたアルミナとエルミナの......、激しい戦いで消耗した魔力が一気に回復したのだ。
「どういう......こと?」
トドメを覚悟していたであろうアルミナが、顔を上げた。
少佐が放ったのは――――相手に魔力を分け与える魔法だった。
「君たちの勝ちだよ、僕の降参だ。こんな右腕ではとても戦えたもんじゃないからね」
「下手な噓を......建前はいいわ、実際はどういうことなの?」
「氷属性魔法のように冷たい言葉だ、簡単な話だよ――――君たちは合格した」
立ち上がったアルミナの手を握る。
「ようこそレーヴァテイン大隊へ、歓迎するよ――――2人共」
合格......。
それはつまり、彼女たちが入隊を認められた瞬間だった。
「相変わらず質の悪い男だ、やはり油断ならんな......あの勇者は。これが果たして吉と出るか凶と出るか......」
席を立ったカヴール大佐は、そう言い残してコロシアムの出口へと1人歩いていった。
「アルミナさん〜! エルミナさん〜!!」
見れば、半泣きになったセリカがボロボロのフィールドに降り、未だ呆然としている2人へ駆け寄った。
「おめでとうございます!! 今日から同僚ッスね!!」
「いや......まぁ一時的にはね」
「とにかく無事で良かったです! 少佐のことだからマジで殺すんじゃないかと心配で......」
「おいおいセリカくん、それはちょっとひどいんじゃないかい......? 僕にだって手心はあるよ?」
治療のため控えていた魔導士たちが、4人の集まるところへ駆け寄る。
俺もその後に続いた。
「一悶着あったが、まぁお疲れ様。これでネロスフィアへ一緒に行けるな」
俺の差し出した手を、水色の髪を振ったアルミナがグッと握った。
「ふぅ......正直死ぬかと思った」
緊張が解けたのか、本音であろう言葉を漏らす。
「俺も死ぬんじゃないかと思ったよ、でもま、無事に入隊できて良かった」
「ありがとうエルド、それにあなた達が観客を守ってくれたおかげで、全力で戦えた」
「どういたしまして」
吸血鬼2人は、さっそく魔導士による治癒魔法を受けていた。
その傍では、ラインメタル少佐がズタズタになった右腕を興味深そうに見ている。
「派手にもってかれましたね、少佐」
「まったくだ、久しぶりに痛みというのを味わえた。これほど有意義なことはない」
「相変わらず化物みたいなタフさですね、すぐに治癒魔法を受けられては?」
俺の言葉に、ラインメタル少佐は背を向けた。
「いやいい、せっかく久しぶりに傷をつけられたんだ。この痛みを――――余韻をもう少し楽しもうと思う」
「大丈夫ですか? 結構痛そうですが」
「なーに、食って寝れば明日には治ってる。帰って書類仕事をしてくるよ。彼女たちの入隊手続きがあるんでね」
「お疲れ様です」
俺は去りゆく少佐に敬礼すると、振り向いた。
「よっし! お前ら腹空いてないか?」
「はいはーい! めちゃくちゃ空いてまーす!!」
開口一番、セリカが手を上げた。
「お2人もあれだけ戦ったんですし、空いてますよね!?」
「空いたー! 血なんて贅沢言わないからなんか食べたーい」
「まぁ......やぶさかじゃない」
よしっ!
俺はポケットから給料入りたてのサイフを取り出した。
「入隊祝いで特別に俺の奢りだ! 海軍カレーでも食いに行こうぜ!!」
「「「おお――――――――ッ!!!」」」
吸血鬼アルミナと、吸血鬼エルミナが新たにレーヴァテイン大隊へ加わった。