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第276話 最高峰の戦い

 

「氷海の果てより至れ!『グラキエース・フレシェット・ランス』!!!」


 空中に出現した無数の氷槍が、少佐へ向けて発射される。

 外れて地面へ着弾したそれは、土のフィールドを一気に氷一色へと変えた。


「はっ!!」


 命中寸前だった氷槍を掴んだ少佐は、続く第2波を全てそれで叩き落とした。

 あまりに超人的反応速度であり、少佐への命中はゼロだった。


 のだが......。


「うおっとっと!」


 足元の氷に滑った少佐は、大きくバランスを崩す。


「だりゃあッ!!!」


 そこへすかさず突っ込んだエルミナが、全力の蹴りを放つ。

 ガードするが、ラインメタル少佐は大きく吹っ飛んだ。


「いけないいけない......、足元注意だな」


 足を氷に突き立て、ブレーキにして止まる。


「凄い、さっきまで一方的だった試合が互角に持ち込んでるんじゃないか?」


 観客の1人が感嘆している。


「実に素晴らしい進化だ、まさかここまでパワーアップするなんて考えてなかったよ」

「褒めてくれてどうも!!」


 エルミナの追撃が始まる。

 両者一歩も譲らない凄まじいラッシュだ。


 観客席も拮抗する戦いに熱狂している。

 が......。


「エルドさん」

「あぁ......」


 俺はセリカの方を向く。


「少佐はまだ遊びモードだな」


 あの人と一緒にいたならわかる、あんなのは勇者の本気じゃない。

 ガチになった少佐はもっと相手を寄せ付けないはずだ。


 それは吸血鬼たちもわかったようで......。


「ここまでやって、まだ本気じゃないとはね......!」


 攻撃をかわしながら少佐が応える。


「筋肉痛になりたくないんでね、急な運動は体に悪いだろう?」

「ッ!! わたしたちをウォーミングアップくらいにしか思ってないようね!!」

「そんなことはないさ、ただもし本気を出してほしいんなら――――」


 エルミナの腕を掴む。


「そちらも命をかけることだ」

「......っ」


 拘束を離れたエルミナは、姉のアルミナの横に並んだ。


「お姉ちゃん......」

「なに?」


 エルミナはキッと正面の勇者を視界に据えると、めいいっぱい魔力を纏った。


「わたしたちが死んだら、亡命政府はどうなるかな」

「ブレスト将軍がいるから大丈夫よ、彼なら必ず魔族を救ってくれる」

「......よっし、なら――――――」


 凄まじい力の開放が、コロシアムを大きく揺らした。


「目の前の勇者に一泡吹かせてやろう!!!」


 妹の言葉に、アルミナも笑みを浮かべる。


「賛成」


 2人の魔力が溶け合い、ドンドン収束していく。

 お互いに横へ拳を突き出し、その空いた空間へ力が流し込まれていった。


「まさか......!」


 カヴール大佐が立ち上がったので、俺は思わず尋ねた。


「大佐、なにかわかるので?」

「あぁ、こう見えて私は元魔導士でね......。彼女たちの覚悟が決まったのはわかる」

「覚悟?」

「あれは文献でのみ知られる合体魔法だ......、互いの魔力波長を寸分違わず一致させ、なおかつ莫大な魔力を必要とする。魔法学院で文章としてなら見たことがあるが......」


 なるほど......、つまり。


「これを耐えられれば彼女たちの勝機は消える......わけですか」

「そうだ、しかしラインメタル少佐も無事では済まないだろう」


 魔力の奔流は2人の拳の間で球体を形作ると、次第に膨れていく。

 一体どれほどの魔力を注ぎ込んでるんだ、間違いなく寿命を削っているだろう。


「勇者ッ!!!」


 エルミナが叫んだ。


「わたしたちの運命、そして希望の全てをお前に叩きつける!! これは最初で最後の一撃だッ!!!」


 アルミナが呼応して口開く。


「夢も希望も絶望も、この一撃にかける! わたしたちの全てをッ!!」


「「だからッ!!」」


 2人の魔力が完全にシンクロした。


「「受け止めて見せろっっ!! 勇者ッ!!」」


 風が吹き荒れる中、少佐はゆっくりと構えをとる

 同時に、金色の魔力が吹き出した。


「きたまえ」


 ニヤリと笑った2人は、己の寿命を削った全身全霊の魔法を発動した。


「エルドさんっ!!」

「了解ッ!!」


 観客席の最前列にエンピを突き立てたセリカが立ち、俺がその後ろで魔法陣を一斉に広げた。


「全員動かないでください!! 俺たちが全力で守ります!!」


 巨大な魔力が解き放たれた。


「「『カオス・エクスプロージョン』ッッッ!!!」」


 拳を前へ突き出すと同時に、極大合体魔法が撃ち出された。

 一瞬で少佐を覆い潰し、拡散した余波がこちら目掛けて突っ込んできた。


「踏ん張れよセリカッ!!」

「はいッ!!」


 2人掛かりで防御魔法を展開。

 無限の魔力を注ぎ込み、セリカの手助けを借りて俺たちは観客を守った。


 コロシアムのあちこちが倒壊し、四散した攻撃がまだ残っていた王都の雲を消し飛ばす。


「少佐ッ!!」


 煙で隠されたフィールドは、やがて抉られた地面が......そして。


「はぁっ......はぁッ!」


 アルミナとエルミナ、2人の吸血鬼が姿を現す。

 全てを出し切ったのだろう、さっきまで身を包んでいた変身は解け、感じられる魔力はほとんどない。


「まさか......」

「嘘だろ、あのラインメタル少佐が!?」


 動揺が広がる。

 まさか、少佐は今の攻撃で死んで......。


 冷や汗が流れると同時、声が響いた。


「驚いたよ、まさか――――――」


 煙が晴れたそこには、ボロボロになった右腕を突き出したラインメタル少佐が立っていた。


「腕を1本持っていかれるとはね、今までの長い長い戦いの歴史の中で......」


 歓声が上がると同時に、ラインメタル少佐は頬を吊り上げた。


「1番効いた攻撃だったよ」


 不死身かあの人は......!

 ゆっくりと歩を進める少佐。


「あれだけやっても......、差は大きいなんてね」

「そんなことないさエルミナくん、正直やられるかなと思った。誇ってもいい、勇者である僕が保証する」


 膝をついた2人の前に立った少佐は、左手に魔力を集めた。

 トドメ......、本当に殺すつもりなのか。


「最後に言い残すことはあるかい?」

「神を......アルナのやつを絶対にブッ倒して」

「――――いいだろう」


 少佐の手から魔法が放たれた。


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