第274話 絶望的な差
マジで勝てるビジョンが見えないお話
「はあああぁぁああッ!!!!!」
エルミナの体からドンと魔力が溢れ出た。
髪が少しだけ逆立ち、炎のようなオーラを纏っている。
おそらく本気を出す時に使う変身だろう、アルミナにも同じ現象が起きていた。
魔力が数十倍にまで跳ね上がっている。
「行くよお姉ちゃん!!」
「わかった!」
アルミナとエルミナは、左右に展開。
さっきからその場を動かない少佐を挟み撃ちにした。
さらに、2人は魔法を発動した。
「『イグニス・フレシェット・ランス』!!」
「『グラキエース・フレシェット・ランス』!!」
炎槍と氷槍が、左右から挟撃――――次々と着弾したそれは大爆発を起こした。
「うおおおっ!!」
俺は必死に爆風を防ぐ。
「やったか!?」
そう叫んだのはエルミナ。
彼女の顔はしてやったりという表情に満ちていた、マトモに受ければ戦車でさえダメージを受けかねない攻撃......無傷で済むはずがないと俺も思った。
「ロンドニアの頃から変わったと言ってたね?」
「っ!?」
そう......、ただ思っただけであり現実は違った。
「ありえない......、直撃したはず」
「したともアルミナくん、だがこれじゃあ――――――」
煙が晴れたそこには、何食わぬ顔のラインメタル少佐が無傷で立っていた。
変わったところと言えば、来ていた軍服が少し破れているくらいだ。
「肩こりすらほぐれんな」
不満気な表情を浮かべ、我らが勇者は首を鳴らす。
「化物め......ッ!!」
「化物だなんて人聞きが悪い、僕は勇者だ」
瞬間、僅かな空気だけを揺らして少佐が消えた。
あまりにも速すぎる移動、ラインメタル少佐は一瞬でアルミナとの距離を詰めていたのだ。
「がふっ!?」
重すぎる肘打ちが炸裂した。
紙のように吹っ飛んだアルミナは、そのまま壁に激突。
「お姉ちゃん!!!」
「くはっ......、あう」
大量の瓦礫が散らばり、アルミナは膝から崩れ落ちた
放っていた冷気が消え、逆だっていた髪がフッと元に戻る。
「そのように中途半端な変身ではホムンクルスにすら勝てない、覚えておきたまえ」
これが勇者......。
前大戦をたった1人で勝ち抜いた英雄――――あまりにもレベルが違った。
「くっそおッ!!!」
さらに魔力を高めるエルミナ。
無数の炎槍を出現させ、ラインメタル少佐目掛けて次々に投擲した。
「はあああぁぁあああッ!!!」
連続した爆発の連鎖――――数十、数百の魔法攻撃が派手なエフェクトとなって少佐を包み隠す。
もし俺が防御魔法を張っていなかったら、既にコロシアムは倒壊しているだろう。
「はぁッ! はぁ......」
ようやく収まる。
息を切らすエルミナは、「どうだ!」と叫んだ。
そして......。
「君たちの変身は、ただ魔力を底上げしているだけだ」
「ッ!!!」
爆煙がかき消され、中から少佐が現れた。
あれだけ食らっておきながら無傷で......、しかも様子が違った。
「変身というのは......」
コロシアムの空気――――その質が変わる。
「こうやるのだ!」
ボンッと爆発のように魔力が溢れた。
少佐の瞳が、またたく間に金色へと変化していく。
まさか......勇者の力すらまだ使っておらず、ずっとノーマル状態で圧倒していたのか
「勇者ブースト......」
横にいたセリカがつぶやく。
誰もが知っている、少佐の戦闘形態だ......!
「さぁて、第2ラウンドだ」
「ぐッ......!」
ヨロリと立ち上がったアルミナが、再び髪を逆立たせる。
「来たまえ、全力で掛からんとうっかり殺してしまうぞ?」
「くっそおおおおぉぉぉおおおおおおお――――――――――――ッッッ!!!!!」
アルミナとエルミナの2人は、無謀とも言える攻勢を掛けた。