第273話 コローナコロシアム
アルミナとエルミナをレーヴァテイン大隊に推薦して数日、俺たちは少佐によってある場所へ呼び出されていた。
「おぉー、ここが"コローナコロシアム"ですか。ずっと前に廃棄されたので初めて入りましたよ」
周囲を見渡せば、敷き詰められた広めの土のフィールドを分厚い石壁が360度グルリと囲んでおり、いかにもコロシアムという場所だ。
「なるほど、ここで戦おうってわけね」
辺りを一瞥したエルミナが、十分だと意気込む。
まさか廃棄予定の施設に目をつけていたとは。
「少佐、わたしたちって試合の間どうすればいいんッスか?」
「あぁ、セリカくんやエルドくんは観客席で見ていてくれ。最前列を用意してある」
「了解です!」
観客席へ向かうセリカ。
見れば、席には結構な数の王国軍人、省庁の役員たちが座っていた。
俺とセリカを最前列にしたのは、要するに戦いの衝撃や破片から彼らを守れということだろう。
「しかし少佐、ホントにやるんですか?」
「もちろんだエルドくん、君だって入隊試験は受けただろう? 彼女たちにもこれは必要なことだ」
思えばロンドニアで俺は少佐の戦いを見ていなかった、どんな戦闘だったかはわからないが吸血鬼姉妹とはもう戦っている。
いまさら戦う必要なんて......。
「戦う必要はもちろんあるとも、しかしそれは彼女たち次第だけどね」
おっと、また心を先読みされたらしい。
相変わらずどういう思考回路をしているんだろうか。
「少佐に異議を唱えるつもりはありません、思う存分やり合ってください」
俺は笑顔で言った。
「君も随分頼もしくなったなエルドくん、観客たちは任せたよ」
「承知いたしました!」
敬礼を行う。
すると、横からアルミナが歩いてきた。
「今回の試合......ルールとかはあるの?」
そういえばそれをまだ聞いていなかった。
少佐は「あぁもちろん」と返答する。
「説明をお願いしても?」
「いいだろう、大丈夫――――実に簡単だ」
少佐は顔を歪ませ笑った。
「どちらかが殺されるか、降参したら試合終了だ」
「血に濡れた勇者らしいルール、いいわ――――わたしとエルミナをあまり舐めないことね」
「ハッハッハ! 期待しているよ」
両者は一定の距離を空けて立つ。
俺は観客席に座ると、すぐに防御魔法を張り巡らせた。
これで観客たちは安全だ、さぁ少佐......思い切り戦ってください。
「随分と自信満々ね、勇者。ロンドニアで戦った時よりもわたしたちは強くなってるわよ」
腕を鳴らしたエルミナが前に出る。
「あぁ知っているとも......、元最高幹部ならさぞかし強いだろうと期待している」
「エルミナ気をつけて、こいつはなにを企んでるのか全然わからない」
吸血鬼姉妹は戦闘態勢に入る。
「それじゃあ試合を開始するッス! 用意――――――始めッ!!!」
一瞬だった。
超高速でエルミナが瞬発すると同時に、アルミナが氷の槍を錬成――――猛然と突っ込んだエルミナ目掛けて投擲したのだ。
「はっ!」
直後にその乱暴なパスを受け取ったエルミナは、掴んだ氷槍をラインメタル少佐目掛けて叩き落としのだ。
冷気と衝撃波が飛び散る。
凄まじいコンビネーション攻撃に呆気にとられたが、それよりも衝撃的な光景が俺の目に映る。
「なっ!?」
振り下ろされた氷槍は、ラインメタル少佐のたった2本の指に止められていた。
その場からは全く動いていない。
「くっ!!」
続けて上空からの踵落とし。
だが、これも空を切り地面へ吸い込まれた。
「......ッ!!」
さらに繰り出される連打は、その全てが防がれる。
「このっ! 調子に――――――」
一歩下がったエルミナは、スピードを乗せながら右手に魔力を込めた。
「乗んなぁッ!!!」
――――ドォンッ――――!!!!
くらえばひとたまりもないであろう攻撃が、少佐に直撃した。
観客席にも動揺が広がる。
まさか、やられたのか......?
そんな一抹の不安はしかし、砂塵が晴れると共に消し飛んだ。
「っ......!!」
見ればエルミナの攻撃は手首を掴まれ完全に防がれていた。
おまけに、少佐の右拳がエルミナの脇腹手前で寸止めされている。
「......遅い、攻撃にいちいち隙がありすぎる。とっくに5発は入れられてるぞ」
少佐は無傷だった。
ボタボタと汗を流したエルミナは、急いでアルミナの所
まで下がる。
「エルドさん......」
「あぁ」
俺はゴクリと唾を呑み、セリカに返事をする。
「これはかなり一方的な試合になるぞ」