第272話 試練
「っというわけで少佐、志願者を連れてきましたよ!」
広報本部に着いた俺たちは、アルミナ、エルミナの2人を連れて少佐の前に立った。
なにがどういう会話でこうなったのかは不明だが、この吸血鬼たちはレーヴァテイン大隊への入隊意思がある。
そして、相談の結果俺とセリカで推薦することとなったのだ。
「お願いしますラインメタル少佐、わたしとエルミナなら、この大隊の活躍にそれなりに寄与することができると思います」
アルミナが一歩前に出る。
「ふ~む......」
ラインメタル少佐は顎に手をやると、しばらく考え――――――
「君たちの目的はわかっている、そしてセリカくんの言うとおりこの大隊は全て僕の独断と偏見で決まる。確かに間違った選択ではない」
「あら、話が早いじゃない。だったら――――」
が、目の前の勇者は人差し指を2本クロスさせ......。
「お断りさせていただく、君たち程度の力を我がレーヴァテイン大隊は必要としていない」
「「「「ッ!!?」」」」
予想外の返答に、俺たちは固まった。
この吸血鬼は決して弱くない、魔王軍の元最高幹部だけあって実力は折り紙付きと言っていい。
なぜ――――
「どっ、どういう意味よ! わたしたちじゃ力不足ってこと!?」
「その通りだよエルミナくん、今の君たちじゃネロスフィアに連れていっても100%生き残れないだろう。僕は死ぬのがわかっている者を大隊に入れたくないだけだ」
あれだけの実力者を力不足と言い張る少佐。
「言ってくれるじゃない勇者......!」
「フン、やつあたりの一撃すらセリカくんのスコップに防がれた吸血鬼に用はない。大人しく無条件降伏でも受け入れたまえ」
「ッ!! 言わせておけばぁっ!!!」
拳を振りかぶるエルミナ。
俺たちはすぐさま止めようとするが、間に合わない。
凄まじい威力のパンチが放たれる。
執務室の家具が吹き飛び、ガラスが割れる。
「なっ......!」
だが、その一撃は椅子に座ったままの少佐に片手で止められていた。
「そうだ、それでいい......。意思を見せることはとても大事なことだ」
掴んでいたエルミナの手を、少佐が離す。
「ならば入隊試験といこう、かつてエルドくんがそうして我が大隊へ入ったように。君たちにもこの通過儀礼をこなしてもらう」
入隊試験......!
なるほど、少佐は彼女たちを試していたのか。
っとなると、近くの森でゴブリンの上位種を狩ったりとかか?
まぁなんにせよ彼女たちなら......。
「試験は単純だ、なあに難しいことではない――――"この僕と戦うだけ"だ」
「......えっ?」
ラインメタル少佐と......戦う?
追いつかない思考、セリカに至っては脳がパンクしているようだった。
「良いじゃない、やってやるわ! 今度はロンドニアの時のようにはいかないわよ」
「場所は後日こちらで指定する、せいぜい――――」
頬を吊り上げる少佐。
「殺されないよう死力を尽くすことだ」