第270話 自暴自棄の果てに
手荒い歓迎を受けて10分後――――俺とセリカは椅子に座って、その光景を苦笑いで眺めていた。
「ごめんなさいー! もうしないから離してよーっ!!」
目の前には氷で四肢を封じられ、上からアルミナに組み伏せられたエルミナがひたすらもがいていた。
「ダメ、あなたが殴り掛かったのがエルドたちじゃなかったら全てが吹っ飛んでた。猛省して」
「してるってばー!! 外務省の連中と間違っただけぇ!!」
「その行動でこっちが死ぬところだったの、ほら! エルドとセリカに謝る!」
なにがどうなってるのかわからないが、エルミナは役員たちをぶん殴ろうとして、たまたま部屋へ入った俺たち目掛けて突っ込んできたらしい。
「ご......ごめんなさい」
「相手が誰だろうと殴っちゃダメ、いい?」
「......はい」
なんとか収まったらしい。
正直ここでガチバトルが始まるんじゃないかと覚悟していたので、エルミナ以外正気だったことに安堵する。
「いやはやすみません、ただ......あまり彼女を責めないでやってください」
ブレスト将軍が申し訳なさそうに頭を下げる。
「それはもちろん......、でもエルミナがあそこまで取り乱すなんて、一体なにが?」
「実はですね――――――」
俺とセリカは、ここに至った顛末を聞いた。
いわく、外務省から無条件降伏を突き付けられ、亡命政府の悲願であった魔族救済が新型兵器によって計画ごと叩き崩されたらしい。
「うわ〜外務省エグいッスね......、わたしがエルミナさんだったら同じくキレてますよ」
あまりの外交に、思わずセリカがドン引く。
「ただ......我々は侵略者です、王国外務省が言っていることに間違いはありません。もしエルミナ様があなた達ではなく外務省職員に殴りかかっていたら、全てがパァになっていたでしょう」
「ブレスト将軍の言うとおり、でもなんであなた達がここに?」
エルミナの拘束を解いたアルミナが、不思議そうにこちらを見つめる。
「いや......挨拶に来ただけだよ、さすがに突っ込んでこられるのは予想外だったがアポを取らなかった俺たちも悪かったよ」
「気にしないで、全部この脳筋バカ妹が悪いから」
「おっ、お姉ちゃんゴメンって〜!」
まぁ、せっかく命からがら亡命政府を打ち立てたのに結果がそれじゃ自暴自棄にもなるか。
なんとかしてやりたいが、外務省管轄のことに俺たち軍人が口を出すことは難しい。
「はいはーい!」
くつろいでいたセリカが、元気よく手を上げた。
「どうしたのよいきなり」
「前に噂で聞いたんですけど、この元連邦大使館ってそこそこの広さのお風呂が付いてるらしいですね」
「あるわよ、なんか湯船? とかいうのも付いた変わったやつ」
立ち上がったエルミナが答えた。
それに対し、セリカは「だったら」と拳を握る。
「オオミナトさんから聞いた言葉に、『裸の付き合い』というのがあるらしいんですよ! アルミナさんエルミナさん! 一緒に入りましょう!」
「「えっ......?」」